ところでダニエルは、開放弦を使うことを僕に強く勧めた。コードを抑えるときに、左手の人差し指で一列ズバッと押さえ、他の指の抑える位置でコードを構成するやり方をセハというらしい。でもダニエルはできればきれいな音が出るようにセハをそれほど重要視していなかった。もちろん押さえなくてはいけないときもあるが、それはやむを得ずやるという感じだった。
そんな風にして、とにかく初心者の僕にダニエルは、最初から指の形が難しかったり、難解な練習は一切与えなかった。それから音符も一回も使わなかった。コードがあって、メロディーがある。それでいいじゃないかというのだ。そういえばもう死んじゃったけどプリンスも音符は読めないみたいなことをどこかで聞いたことがある。まあ、必要としないということかもしれないけど(でもダニエルはしっかり音符は読めるみたいだ)。
例えばBm(Bマイナー)というコードがある。
普通にやると左手の人差し指で6弦全部を押さえるコードだが、ダニエルは、大変だからと一番低い5弦と6弦を押さえずに引く方法を最初から僕に教えた。
とにかく、こんな風に楽にきれいに鳴る方法を教えてくれたから、僕は挫折することなく練習を続けた。
「きれいになった方がいいに決まっているんだ。だからできる限り6弦全部押さえる方法は使わない。開放弦が一番音がいい」
とダニエルは僕を甘やかした。いや、というよりは続けられるように、それからきれいに鳴るようにということを重視したのだと思う。
僕はこのギターレッスンの1年後日本に帰るが、多くの人が6弦全部を押さえるからという理由でギターを挫折していることを知った。それから多くのギターテクニックのビデオや本で、本当に複雑なコードを難しく押さえることが美徳になっていることを知った。ダニエルに習えばいいのに、みんなと思った。