3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第54話 クリスマスツリー点灯

森にはいくらでもクリスマスツリーになりそうな木が並んでいる 母屋のキッチン兼食卓の周りには、久しぶりに会った友達同士の近況や初対面のあいさつで、華やいだ空気が充満している。 松ぼっくりに娘たちが色を塗って作った飾りを、そこらへんでサムエルが…

第53話 巻き寿司はいかが

キッチンには地元の野菜や果物が無造作に並んでいた 僕は鉄鍋にざるで洗ったお米と水を入れ、コンロの火をつけた。鍋とふたには微妙な隙間があって、ぴったりとはまらず、蒸気が予想以上に漏れ始めた。だからステファニーと相談して、蒸気が出ているところに…

第52話 パーティーが始まろうとしている

キッチンではかわるがわるシェフが登場する その日の夕方、まだ日が暮れる前なのに、パーティの準備で母屋はにわかに活気であふれていた。台所ではこの村の人口密度が局所的に史上最高を記録していたに違いない。 クリスティーナおばさんを含めた牧場の家族…

第51話 デイビッドのギター

クールな部屋でも夜は寒い。窓にガラスがまだはまっていない。 そんなデイビッドの引っ越し荷物の中に、小さなギターケースがあった。 実は彼らの部屋を初日に見せてもらったときに見つけて気になってはいたのだが、特に触れずにいた。でも僕は楽器が大好き…

第50話 クールな部屋

山道では誰ともすれ違わなかった。 一時間も歩き回っていたら、エバーグリーン牧場にいつの間にか戻っていた。途中、何度も「ほら見て家だよ」とチェペは教えてくれた。だけど、結局ステファニーが言っていた「丘から見える村の美しい景色」らしきものは見当…

第49話 プーロ トラバハール(働いてばっかりだよ)

働いてばっかりだよ、と兄は笑った。 散策ツアーと言っても、山道を登ったり下ったりたりする、まったりとした散歩でしかない。ただ道に迷わないように、地元の少年たちが付き添ってくれる。「畑仕事を手伝ってんのか」とか、「坂道歩くのは疲れないか」とか…

第48話 散策ツアーと兄弟

スクービーはずいぶん嬉しそうに山道の散歩についてきた。 その日、つまりクリスマスイブのメインイベントは夕食だ。僕はこの広い牧場でいろんな国の人達と一緒に食べるディナーにゲストとして招待されている。 でもそれまでには二時間ほど時間があるのでス…

第47話 たぶん馬から落ちていた 

馬に悪気はないが、突然全速力はかんべんしてください。 そんな風にいろいろと試行錯誤しているうちに、本当に一度だけ、馬が言うことを聞いたのか、ただの気まぐれか、突然スピードを上げて馬場を全速力で駆け出した。最初はちょっと走ってみたという感じだ…

第46話 若くて美しい師匠の娘は、軽い足取りで

シャヤンは完全に白馬と一体化した クリスマスイブのその日、馬術の師匠サムエルに、今日は何をしたいかと聞かれたので、「ギャロップ」の仕方を教えてほしいとリクエストした。 ギャロップとは馬が全速力で走るときの足の運びで、日本語では襲歩(しゅうほ…

第45話 闇夜でパンをかじったのは

キッチンは共用、冷蔵庫はない。 母屋で家族のみんなと二日目の夕食を済ませた僕は、また暖房のない寒い小屋の中で目のすぐ下あたりまで毛布に潜り込んだままぐっすり眠り、クリスマスイブの朝を迎えた。そのころには喉の痛みはすっかり消え、爽快な気分で隣…

第44話 地図と手紙

ステファニー直筆の地図は力作だった。 小屋に戻り、紅茶で一服しようと共有キッチンでお湯を沸かし始めた。 持ってきた読みかけの小説と備え付けのティーカップを手作りの木製テーブルにのせ、やかんから湯気が出てくるのを待ち、リュックからステファニー…

第43話 電波と夕日、誰もいない木の根っこで

谷間に溶けるように沈んでいく夕日。 山に入ると民家もなくなり、十分ほどトウモロコシ畑の横にできた山道を歩いた。ここをしばらく進んで分からなかったら牧場にさっさと戻ろうと半ばあきらめかけていた時に、携帯電話の電波受信状況を示すバーが一本だけ立…

第42話 電波のなる大きな木を目指して

牧場の裏手から僕は携帯電話の電波を目指した。 小川があると聞いていたので、探したが、見つけることができたのは今にも乾いてしまいそうな水の流れだけだった。その上に橋があると地図に描かれているが、橋というよりは、道の下にその水が通っているだけの…

第41話 携帯電話の電波はどこですか

トウモロコシ畑の向こうに日は沈んでいく ところで、エバーグリーン牧場の周辺は、携帯電話の電波が届かない。ただWiFiのモデムが設置されているので、母屋だけはインターネットがかろうじて使える。ただし接続は限定的で不安定だ。 だからこの家族は友…

第40話 大ベテランでも失敗はある

愛すべき家族のみんな。 「でも、どうしてこの牧場のことを知ったの?」 昨日のバーニャと同じ質問をクリスティーナは僕に投げかけた。そりゃ他にも有名で魅力的な観光地がわんさかあるチアパス州で、わざわざ不便な思いをしてこの牧場にたどり着く日本人は…

第39話 フランスからのおかあさま

クリスティーナは最高のおかあさんだった。 ステファニーが今日のセッションはどうだったかときいてきたので、山の中も泥の中も面白かったと僕は答えた。 「泥の中に入っていったの? そりゃクレイジーだわ」 彼女はあきれたようにため息をついて苦笑いした…

第38話 100回乗れば一人前?

山のツアーが終わった。ひと風呂浴びるか。 スリルと胸のすくような爽快さを味わった、この森の中の乗馬ツアーは結局一時間半ほど続いた。そして日が傾き始め、山から牧場に戻る砂利道で、馬から降り、歩きながら手綱を引くサムエルがぼそりと言った。 「乗…

第37話 後ろがついてきてないみたいだ

山はいつも雲が近い。僕らは森の中で馬の背中にしがみついた。 その一方で、ゆっくり歩いているときには、油断していると突然立ち止まった馬は地面の草をぶちぶちとむしって食べ始める。馬たちにとっては牧場の敷地内が、サラリーマンでいうところの「職場」…

第36話 落ちる、ぶつかる(かもしれない)恐怖

広大な敷地には不思議な方向に枝が傾いた大木がある。 「馬たちは牧場で走るのはあまり好きじゃない。とにかく山で自由に走りたいんだ」 サムエルは馬術レッスンの間、何度も言った。彼によると牧場の馬場を歩いている間、馬は仕方なく仕事をしているのだと…

第35話 バンジー やったことあるかい?

昼食はヘルシーでシンプル。ワイワイしゃべりながら食べた。 午前の部が終わると、昼食の時間だ。生徒全員で母屋に行き、ステファニーの手料理をごちそうになった。サムエルとシャヤンも一緒でにぎやかだ。骨付きの豚のあばら肉が出てきたから、体を動かして…

第34話 うんともすんとも言わないとはこのことか

それから僕らはまた馬のつながれた元の場所までゆっくりと歩いて戻り、一人ずつ馬の背中に乗る練習をした。その白い牝馬は「ダッチェス」という名前で、初心者にも我慢強く付き合ってくれる優等生だ。 順番に飛び乗る人のために、両手のひらで踏み台を作って…

33話 ぬるぬるの中で

泥の中に足を突っ込むのは何十年ぶりだろう 「分かったかい。泥があっても馬は平気で歩くように見えるが、実際は今のあんたたちと同じで、馬にもバランスはとりづらいんだ。だから上にいる人間は、それを分かったうえでうまく体重を移動させないといけない」…

32話 体重移動

草原の真ん中まで来ると、サムエルは僕ら五人に車座になって座るように言った。いつの間にか目の前にやってきた犬をつかまえてなでている。そして太陽の光が植物を光合成させ、それを動物が食べて命が循環していくだとか、水の大切さについての説明を一通り…

31話 馬の蹄が犬の餌

馬を並べてつないでおけるこの柵をベースにコミュニケーションのイロハを習った。 ところでその日初めて、僕は馬の「蹄」が人間でいう「爪」にあたるものなのだと知った。サムエルがおもむろに鎌のような道具で蹄を1センチほどそぎ落としたのだ。そのスライ…

30話 英語だろうが、日本語だろうが、スウェーデン語だろうが・・・

剣山のようなブラシや蹄から石をかき出すピックたち。 その日、僕以外に馬術セッションに参加したのは四人だ。初日から一緒のバーニャやデイビッドのサンフランシスコ組に加え、新しくスウェーデン人の若いカップルが日帰りで加わった。 「シンジ、今日のメ…

29話 カラフルで野菜中心

サラダが中心の朝ご飯は、見ているだけで体調がよくなる気がする。 翌朝の目覚めは快適だった。喉の痛みはサン・クリストバルの薬局併設診療所で、大柄な女医のお姉さんから処方された薬がきいたのか、ほぼ感じなくなっていた。ひどくなったときにと抗生剤を…

28話 月夜に笑う馬

納屋風小屋は寒いを通り越して冷たかった ところで恥ずかしい話だが、この宿で過ごす初めての夜、真夜中に小便に起きた。医者に風邪のひき始めだから水を大量に飲めと言われたので、ひたすら飲み続けたせいかも知れない。 外は月の光で明るいから、真夜中で…

27話「何もない」というぜいたく

空には月あかりがまぶしい クリスマスを間近に控えているはずなのに、村には華やかな祭りの雰囲気はない。だけど教会では連日ミサだけはしっかり行われている。この村で唯一辟易したのは、夜六時頃から牧師が村人たちに大音量のマイクで説教をがなりたててい…

26話 デスコネクタールセ(接続解除)

納屋風小屋の外ではよく犬たちが寝そべったり、僕を待ち構えたりしている 日が暮れる前にシャワーを浴びたいとステファニーに伝えると、さっきのボイラーに薪をくべ、お湯を沸かしてくれた。シャワールームは人ひとりがやっと入れるぐらいの小さなスペースだ…

25話 アインシュタイン登場

教え子にはあだ名がつく(男子のみ) 結局その日の午後、2時間ほど続いたセッションで、僕らは少し馬にまたがるところまで教えてもらったが、歩くまでで決して走ることはなかった。 その前に覚えなくてはならないことがたくさんあるのだ。牧場の中で自然と…