3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第46話 若くて美しい師匠の娘は、軽い足取りで

シャヤンは完全に白馬と一体化した クリスマスイブのその日、馬術の師匠サムエルに、今日は何をしたいかと聞かれたので、「ギャロップ」の仕方を教えてほしいとリクエストした。 ギャロップとは馬が全速力で走るときの足の運びで、日本語では襲歩(しゅうほ…

第45話 闇夜でパンをかじったのは

キッチンは共用、冷蔵庫はない。 母屋で家族のみんなと二日目の夕食を済ませた僕は、また暖房のない寒い小屋の中で目のすぐ下あたりまで毛布に潜り込んだままぐっすり眠り、クリスマスイブの朝を迎えた。そのころには喉の痛みはすっかり消え、爽快な気分で隣…

第44話 地図と手紙

ステファニー直筆の地図は力作だった。 小屋に戻り、紅茶で一服しようと共有キッチンでお湯を沸かし始めた。 持ってきた読みかけの小説と備え付けのティーカップを手作りの木製テーブルにのせ、やかんから湯気が出てくるのを待ち、リュックからステファニー…

第43話 電波と夕日、誰もいない木の根っこで

谷間に溶けるように沈んでいく夕日。 山に入ると民家もなくなり、十分ほどトウモロコシ畑の横にできた山道を歩いた。ここをしばらく進んで分からなかったら牧場にさっさと戻ろうと半ばあきらめかけていた時に、携帯電話の電波受信状況を示すバーが一本だけ立…

第42話 電波のなる大きな木を目指して

牧場の裏手から僕は携帯電話の電波を目指した。 小川があると聞いていたので、探したが、見つけることができたのは今にも乾いてしまいそうな水の流れだけだった。その上に橋があると地図に描かれているが、橋というよりは、道の下にその水が通っているだけの…

第41話 携帯電話の電波はどこですか

トウモロコシ畑の向こうに日は沈んでいく ところで、エバーグリーン牧場の周辺は、携帯電話の電波が届かない。ただWiFiのモデムが設置されているので、母屋だけはインターネットがかろうじて使える。ただし接続は限定的で不安定だ。 だからこの家族は友…

第40話 大ベテランでも失敗はある

愛すべき家族のみんな。 「でも、どうしてこの牧場のことを知ったの?」 昨日のバーニャと同じ質問をクリスティーナは僕に投げかけた。そりゃ他にも有名で魅力的な観光地がわんさかあるチアパス州で、わざわざ不便な思いをしてこの牧場にたどり着く日本人は…

第39話 フランスからのおかあさま

クリスティーナは最高のおかあさんだった。 ステファニーが今日のセッションはどうだったかときいてきたので、山の中も泥の中も面白かったと僕は答えた。 「泥の中に入っていったの? そりゃクレイジーだわ」 彼女はあきれたようにため息をついて苦笑いした…

第38話 100回乗れば一人前?

山のツアーが終わった。ひと風呂浴びるか。 スリルと胸のすくような爽快さを味わった、この森の中の乗馬ツアーは結局一時間半ほど続いた。そして日が傾き始め、山から牧場に戻る砂利道で、馬から降り、歩きながら手綱を引くサムエルがぼそりと言った。 「乗…

第37話 後ろがついてきてないみたいだ

山はいつも雲が近い。僕らは森の中で馬の背中にしがみついた。 その一方で、ゆっくり歩いているときには、油断していると突然立ち止まった馬は地面の草をぶちぶちとむしって食べ始める。馬たちにとっては牧場の敷地内が、サラリーマンでいうところの「職場」…

第36話 落ちる、ぶつかる(かもしれない)恐怖

広大な敷地には不思議な方向に枝が傾いた大木がある。 「馬たちは牧場で走るのはあまり好きじゃない。とにかく山で自由に走りたいんだ」 サムエルは馬術レッスンの間、何度も言った。彼によると牧場の馬場を歩いている間、馬は仕方なく仕事をしているのだと…

第35話 バンジー やったことあるかい?

昼食はヘルシーでシンプル。ワイワイしゃべりながら食べた。 午前の部が終わると、昼食の時間だ。生徒全員で母屋に行き、ステファニーの手料理をごちそうになった。サムエルとシャヤンも一緒でにぎやかだ。骨付きの豚のあばら肉が出てきたから、体を動かして…

第34話 うんともすんとも言わないとはこのことか

それから僕らはまた馬のつながれた元の場所までゆっくりと歩いて戻り、一人ずつ馬の背中に乗る練習をした。その白い牝馬は「ダッチェス」という名前で、初心者にも我慢強く付き合ってくれる優等生だ。 順番に飛び乗る人のために、両手のひらで踏み台を作って…

33話 ぬるぬるの中で

泥の中に足を突っ込むのは何十年ぶりだろう 「分かったかい。泥があっても馬は平気で歩くように見えるが、実際は今のあんたたちと同じで、馬にもバランスはとりづらいんだ。だから上にいる人間は、それを分かったうえでうまく体重を移動させないといけない」…

32話 体重移動

草原の真ん中まで来ると、サムエルは僕ら五人に車座になって座るように言った。いつの間にか目の前にやってきた犬をつかまえてなでている。そして太陽の光が植物を光合成させ、それを動物が食べて命が循環していくだとか、水の大切さについての説明を一通り…

31話 馬の蹄が犬の餌

馬を並べてつないでおけるこの柵をベースにコミュニケーションのイロハを習った。 ところでその日初めて、僕は馬の「蹄」が人間でいう「爪」にあたるものなのだと知った。サムエルがおもむろに鎌のような道具で蹄を1センチほどそぎ落としたのだ。そのスライ…

30話 英語だろうが、日本語だろうが、スウェーデン語だろうが・・・

剣山のようなブラシや蹄から石をかき出すピックたち。 その日、僕以外に馬術セッションに参加したのは四人だ。初日から一緒のバーニャやデイビッドのサンフランシスコ組に加え、新しくスウェーデン人の若いカップルが日帰りで加わった。 「シンジ、今日のメ…

29話 カラフルで野菜中心

サラダが中心の朝ご飯は、見ているだけで体調がよくなる気がする。 翌朝の目覚めは快適だった。喉の痛みはサン・クリストバルの薬局併設診療所で、大柄な女医のお姉さんから処方された薬がきいたのか、ほぼ感じなくなっていた。ひどくなったときにと抗生剤を…

28話 月夜に笑う馬

納屋風小屋は寒いを通り越して冷たかった ところで恥ずかしい話だが、この宿で過ごす初めての夜、真夜中に小便に起きた。医者に風邪のひき始めだから水を大量に飲めと言われたので、ひたすら飲み続けたせいかも知れない。 外は月の光で明るいから、真夜中で…

27話「何もない」というぜいたく

空には月あかりがまぶしい クリスマスを間近に控えているはずなのに、村には華やかな祭りの雰囲気はない。だけど教会では連日ミサだけはしっかり行われている。この村で唯一辟易したのは、夜六時頃から牧師が村人たちに大音量のマイクで説教をがなりたててい…

26話 デスコネクタールセ(接続解除)

納屋風小屋の外ではよく犬たちが寝そべったり、僕を待ち構えたりしている 日が暮れる前にシャワーを浴びたいとステファニーに伝えると、さっきのボイラーに薪をくべ、お湯を沸かしてくれた。シャワールームは人ひとりがやっと入れるぐらいの小さなスペースだ…

25話 アインシュタイン登場

教え子にはあだ名がつく(男子のみ) 結局その日の午後、2時間ほど続いたセッションで、僕らは少し馬にまたがるところまで教えてもらったが、歩くまでで決して走ることはなかった。 その前に覚えなくてはならないことがたくさんあるのだ。牧場の中で自然と…

23話 日光がなければ生きていけない

広大な草原を横切り、自然を感じるセッションへ ひとまず馬たちを小屋に戻したら、今度はサムエルを先頭にして牧場のど真ん中を横切り、何度か柵のかんぬきを上げたり下ろしたり、柵の出入り口の丸太の間に体をくぐらせたりしながら、牧場の広い敷地を奥へ奥…

22話 馬に手のひらはないけれど

馬の毛並みや肉付きを見ているといかに愛されているかが分かる それまで観光地で馬に乗って散歩したことがあったので、僕は勝手に乗れる気になっていたし、ある程度馬のことは知っているつもりでいた。だけどサムエルからいろいろな説明を受け、馬と触れ合っ…

21話 パートナーはネイライダ(馬の名前)

馬との至近距離でのコミュニケーションは、結構緊張する 次に向かったのは道具小屋だ。壁には馬にかける手綱がかかっていて、棚には黒いヘルメットが7つほど並んでいる。乗馬用のヘルメットなので、つばがほんの少し出っ張っている。生徒の僕ら3人は、それぞ…

20話 馬術教室が始まった!

いよいよ馬術教室が始まる いろいろな話をしながら、出された料理をすっかり平らげ、オプションで追加したスペイン産の赤ワインを飲みほした頃、バーニャとデイビッドのサンフランシスココンビが母屋の外で退屈そうに座っているのに気づいた。だんなのサムエ…

19話 ホームスクールと日本人のレール

ステファニーは魔法のように素早く、限りなくヘルシーなご飯を作る 僕の他に宿泊客はバーニャとデイビッドしかいないが、彼らは部屋で自炊しているらしい。だからオーナー家族と食事を共にするのは僕1人だ。夫婦や娘と一緒に食卓を囲むから、まるでホームス…

18話 猫、犬、ニワトリと泣きそうな七面鳥

猫たちは僕が相手にしないのが分かるとさっさとどこかへいく せっかくなので小屋の裏でハンモックに横たわって本を読もうとしたが、あまりに空が広く、おまけに冬の高原は涼しいので何だか落ち着かない。視界に入るものと言えば、斧や山積みされた薪、タイヤ…

17話 たった1つのルール

エバーグリーン牧場の犬たちは何だかとても人懐っこい 続いて小屋の裏側にあるトイレとシャワーに案内された。シャワールームは1人がぎりぎり入れる広さだが、小さな脱衣所も用意されているから体を洗うには十分だ。 昼間に入ればボイラーのタンクが日光で…

16話 納屋風小屋を独り占め

納屋風小屋(Barn Wood House)は最大4に泊まれるけれど・・・ ところで16歳の長女ゾエは、今僕がさっさと離れてきた、この近辺で1番大きな観光地であるサン・クリストバルの町に、フランスから来たおばあちゃんと泊っていてその日は不在だった。 リヨンに住…