バンを降りたら
「サン・クリストバルの中央市場まで歩いてバスに乗り、ナタレ村に行く」。
宿からの案内通りに市場を目指して歩こうかと思ったが、10ブロックも歩かなくてはいけないことが、その場にいた停留所のお兄さんたちの話から判明した。荷物はリュック一つとキャスター付き小型スーツケースだから行けなくはないが、できれば体力を温存したい。
バスターミナルでぐずぐずしていると、「タクシーで連れていくぞ」とタクシー運転手やバス会社のあんちゃんたちから、いけない誘惑が次々と襲い掛かってくる。魔女に毒りんごを差し出されているかのようだ。いや違うんだ。今回は安い乗り合いで行くと心に決めたはずじゃないか。
今楽したら一生「楽だけどお金がかかること」ばかりで生活が埋め尽くされてしまう。
とか何とか考えながら、国道沿いの歩道でうろうろもじもじしていたら、巨大な女のはりぼて人形を従えた、にぎやかな行列が車の流れを堂々と遮った。国道を横切って、町の中央へ向かうそのグループは、後方に続くピックアップトラックの荷台に聖人像を載せている。
観光客が周りにいないところを見ると、純粋に彼らは教会から聖人像をそっと取り出し、地元有志で結成したブラスバンドを従えて、クリスマスの儀式を荘厳にとり行っているのだ。でも三メートルを裕に超える「はりぼておさげ女」が、目の前をくるくると回りながら横切っていく様子は派手で楽しそうだ。
引き続き乗り合いタクシー乗り場を探して歩いていると、みかんジュースとトウモロコシの炭焼きを売る屋台があったので、そこで一服することにした。
立ち食いするにはどうしても立ち止まらなくてはならないから、次の行動に迷いぐずぐずしている自分に言い訳ができる。おまけに母親と娘二人でやっているその店のトウモロコシは、異様に濃い黄色をしており、見るからにうまそうだ。いや、黄色というよりオレンジ色に近い。それを木の棒に差して、炭火であぶっている。15ペソだから100円もしない。一緒に売っている生みかんジュースも買って、ひとまず落ち着くことにした。
メキシコシティの道端の屋台でよく売られているトウモロコシは、クリーム色をしていて粒が大きい。そして表面にはこれでもかとねっとりマヨネーズを塗りたくり、おまけに真っ赤なチリパウダーとレモン、それに粉末チーズをかけるのが僕が知っている定番の食べ方だ。
ところがこの屋台で出されるのは、レモンと塩のみのシンプルな味付けで、おまけに発泡スチロールの容器ではなく、トウモロコシの皮にのせて「はいどうぞ」と出される。薄黄緑色の皮に、お好みで使ってねと粗塩が少々載っていて、そのシンプルで自然体な感じがとても気に入った。
エコだし。