3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

8話 速度不明のタクシーはベタニア村に到着した

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国道190号線を乗り合いタクシーはひた走る(速度不明)

初対面で厚かましいな、と思いながら僕は黙って暗算し始めた。日本の紙幣といえば、最低でも1000円だ。たとえ持っていたとしても、行きずりの人に簡単にあげられる額ではない。

「ペソでいうと200ペソ近くです。コインだったら次回来るときに持ってきて、喜んで差し上げますが」

「いや、恵んで欲しいんじゃないんよ。俺は古いペソのお札や世界中のお札のコレクションをしているんじゃ。だから当然お金を支払ってお札を買う」

その言葉を聞いて、話を最後まで聞かずに人を見た目で決めつけていたことを反省した。ロヘリオおじさんは、外国人が珍しいから「ダメもと」で何かくれと言っているわけではなかった。仲間と一緒にお札を集めていて、10万円以上もする古いメキシコの紙幣もそのコレクションの中にはあるという。つまり生粋のコレクターだったのだ。

「分かりました。次来るときには、きっとさっきのタクシー乗り場であなたを探し出してお札を渡します」

勢い余ってそう約束した。いろんな村に乗客を乗せて走り回るタクシー運転手に再会するなんて、かなうかどうか誰にも分らないのだけれど。

40分ほどテオピスカ方面へ車が走ったところで、ナタレ村の一つ手前のベタニア村で降ろしてもらうことにした。エバーグリーン牧場からの案内では、ナタレ村まで行って、さらに別のタクシーに乗り替えするのがもともと教わっていた道だ。

だけど、そこで乗り合いタクシーが見つからない場合、ずっとタクシーが通るまで待つか、それともこのベタニアまで戻って、割高な個人タクシーに乗るしかないとも書いてあった。だったらベタニアで最初から降りて、あわよくば途中で通りがかった乗り合いタクシーを止めてやろうと思ったのだ。どうしようもなくなったら、その時は個人タクシーに乗るしかない。

ロヘリオおじさんは未舗装の路肩に車を寄せて停車し、車の後ろにまわって僕の黒く小さなスーツケースを地面に置いた。

タクシーの中での会話の食いつき具合とは対照的に、お別れはやけにあっさりとしている。そう、彼はこの後後部座席の夫婦や、もう一人のおばさんとその荷物たちを、迅速かつ丁寧に、彼らの住む村に送り届けなくてはならないのだ。

国道190号線はテオピスカ方面に緩やかに蛇行しながら続いていた。ロヘリオさんは、砂埃を立てながらタクシーを勢いよく発車させた。