3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

10話 宿の女将は笑顔が素敵

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国道190号線ぞいの路肩は車が横づけすると砂埃が舞い上がる

細身で姿勢が良くて、薄い青のスリムなジーンズ姿の彼女は、僕がまさに目指しているエバーグリーン牧場の奥さん、ステファニーだったのだ。娘と買い出しに来ているところ、あまりに偶然に初対面したのだった。

通りの反対側には次女のシャヤンがいた。白い肌に栗毛の⒕歳は、すました表情にそばかすを浮かべているが、お母さんに似てすらっとして大人っぽく見える。

彼女たちとの会話は英語で始まった。僕は正真正銘のアジア人の顔をしているので、まさかスペイン語ができると思う人はまずいない。だからラテンアメリカの観光地に行くと、だいたいなまりのきつい英語で話しかけられる。

ステファニーも娘のシャヤンも英語がベラベラなのだからこれは当然の流れだ。

「シンジ、これから宿に戻るところだから、一緒にタクシーで行きましょう」

そうか、この人が僕の今回のけちけち乗り合い旅行魂に火をつけた張本人なのだとその時思い出した。宿に向かう最後の最後の行程で、どうやってたどり着こうかと途方にくれていた僕は、こんなふうにして割り勘タクシーで、目的地の牧場まで直接連れて行ってもらえることになったのだ。

「道沿いのタクシーの運転手たちとあなたが話しているのをずっと見ていたのよ。それでこっち向いて歩いてきたから、どこに行くつもりなんだろうと不思議に思っていたところ」

ステファニーは興味津々で僕を眺めていたらしく、ニコニコを通り越し、もはやニヤニヤしている。あなたの挑発にまんまと乗って、意地になって歩いていたのですよ、と言いたいところだったが、恥ずかしいのでやめた。

「この道に乗り合いタクシーとかバスは通るのかときいていたんだ。1人でタクシーに乗ると料金は高いし、乗り合いタクシーを探すなら、この先のナタレ村まで歩かないといけないって言うし。それで仕方ないから歩き始めたところだった」

 正直に言ったが、ステファニーはまだニヤニヤしている。

「それにしても時間通りに着いたのね」

僕はちょうどお昼の2時ごろに宿に着くとメールで伝えていた。だからその1時間前にステファニーとシャヤンは、このベタニアの村まで野菜や果物を買い出しに来ていたのだ。

そんなところにあらかじめ日本人だと伝えていた僕が登場したから、すぐに誰だか分かったらしい。それにしても一つ先のナタレまで行かずに、ベタニアで下車して結果的にものすごくよかった。どうやら今回の旅はついている。

ステファニーの笑顔がとびきり明るいから、途方に暮れかかっていた僕の陰鬱な気持ちは、あっという間に吹き飛んだ。和やかなウェルカムムードの中、車は2人の買い物の戦利品が入った木箱や、買い物袋をトランクにたっぷり積んで出発した。