途中タクシーはステファニーの指示で、道端にある露店に寄った。サン・クリストバルからベタニアまでの道はきれいに整備された国道だけれど、ひとたび道路から路肩に出ると黄土色の砂地だ。その上に途中いくつも露店を見かけた。
メキシコの幹線道路沿いにある露店は土地ごとに売っているものが違う。たとえばアカプルコがあるゲレロ州に、メキシコシティから向かう途中には、50本ほどをひとまとめにしたバラの束が無造作に売られているし、北西にケレタロ州を目指して走ると、イチゴのパックがたくさん売られている。そしてサン・クリストバルから続く国道沿いには、なぜか大量の木箱と少しの観賞用サボテンを見かけた。
ステファニーとシャヤンが、ベタニアから5分ほどにぽつりとある露店を目指したのは、サボテンの鉢を選ぶためだった。どうやら牧場からの道すがら、道端に並ぶサボテンに目をつけていたらしい。
そしてその露店には、例によって横にずらっと木箱が積まれていた。僕はサボテンを買っても持って帰れないので、木箱屋さんのおじさんと話をした。
「どこから来たの、日本かい」
「メキシコシティに住んでいるけど、もともとは日本人です。ところでそこら中で木箱をやたらと見たんだけど、ここでも並んでいるでしょ。どうして木箱が売られているのですか」
「ああ、これはね、野菜やら果物やらを運ぶ時の箱なんだけど、ここらへんの山の木を使って我々が組み立てて。ほら、椅子もあるよ。どうだい1つ」
おじさんはすぐ近くに木がうっそうと茂った森を指さしながら、木箱は1つ30ペソ(180円)だと教えてくれた。サン・クリストバルやトゥクストラ・グティエレスなんかの都市で買い付けた食料品を、これらの木箱に放り込み、大量にピックアップトラックに載せる一家のお父さんが目に浮かんだ。
家族の待つ村に持って帰るとき、段ボール箱だと中身の重みと湿気で箱は折れ縮み、例えばみかんならつぶれて汁だらけになってしまうだろう。でもこの木箱なら、いくら高く積んでもせいぜい箱の1番底に運悪く置かれたみかんだけが少し形を崩すぐらいで、何とか目的地の村まで無事運べるに違いない。
そうこう想像をめぐらしているうちに、ステファニーとシャヤンはあれこれ母娘で話し合った末に、数ある鉢植えの中から1鉢40ペソ(240円)の拳大のサボテンを2つ選び、僕らは再びタクシーに乗り込んだ。サボテンは極細の白いとげで覆われていた。そして僕はいつも通り助手席に、2人は後部座席に座って牧場に向かう道中、僕らの会話はまだ英語だった。