3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

15話 前髪を初めて切ったら

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エバーグリーン牧場には馬が14頭いるだけではなかった

ステファニーは民宿でいうところの女将だ。

客が来たら泊まる場所に案内し、食事を作り、会計や予約の受け付けもする。そして当然家族の面倒も見るから、ゲストは毎回家族と一緒に食事をすることになる。

ところで、どうしてフランス人の彼女がこんなメキシコ南東部の奥地にいるかを簡単に説明すると、メキシコを旅していて、この土地が気に入ったから住み着いたということになる。フランスの生活もいいけれど、小さい頃から自然の中にいるのが大好きだった彼女には、この土地の生活がしっくり来たのだ。そしてアメリカ人のサムエルと出会い、7年前から牧場を運営し、ゲストを迎えるようになった。

一方だんなのサムエルは、メキシコに来る前からずっとアメリカで馬にかかわる仕事をしてきた。牧場や競馬用の馬の調教や世話をいろいろなところでやってきた。そしてメキシコ各地を13年間転々とした。そしてある牧場で乗馬を教えていたところに、ステファニーが生徒としてやってきた。

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羊やニワトリ、全部家族だ

それ以来2人は生活を共にしているが、今のチチウェイスタン村の生活は最高に楽しそうだ。牧場全般の世話を担当するサムエルは、ゲストの乗馬アクティビティのインストラクターでもある。

動物の餌やりなどを含めて37ヘクタールの広大な土地すべての面倒を見ている。ヘクタールというとぴんとこないが、日本でいうところの「東京ドーム何個分」という表現にすればだいたい八個分の広さなのだ。1ヘクタールは100メートル×100メートルなので、4キロメートル四方の広さということになる。

 家族は14歳と16歳の娘が2人とオーナー夫婦の四人だから、僕の家族と同じ構成だ。でもここには馬が14頭、犬と猫がそれぞれ5匹ずつ、羊が4頭に牛が1頭、ニワトリがたぶん8羽ぐらいに、なぜか七面鳥が1羽まじっている。みんな毛並みや羽がつやつやしていて、栄養状態が良いのが一目で分かる。これ全部合わせて家族と考えれば相当な大家族ともいえる。

そんな説明を聞いて、うんうんとうなずいている僕の前で、14歳のシャヤンはずっと僕の後ろのガラス窓を眺めていた。そこに映る自分の顔を見ては、前髪をいじったり顔のアングルを変えたりして満足そうにしている。

「この子は客が来ているのに全然会話にも入ってこないし、何なんだ。確かにかわいいけど、相当なナルシストなんじゃないか」

などと思っていたが、実はついさっき、つまり僕とベタニア村で会った少し前に、生まれて初めて前髪を切ったところだったとステファニーから聞いた。

確かに雑誌で見た彼女の写真は、今よりずっと幼く、表情がまったく違って見えた。そりゃ、女の髪は命だから、イメージチェンジ後は気になって仕方ない。自分が思っていたより大人っぽく見えるのが、どうやらかなり気に入っているのだとステファニー母さんは僕に付け加えた。これはシャヤンのお姉さんのゾエが、前髪を初めて切った時もまったく同じ反応だったらしい。