次に向かったのは道具小屋だ。壁には馬にかける手綱がかかっていて、棚には黒いヘルメットが7つほど並んでいる。乗馬用のヘルメットなので、つばがほんの少し出っ張っている。生徒の僕ら3人は、それぞれ手綱とヘルメットを選んだ。
僕の頭はどうやら他の人より大きいみたいで、入るヘルメットが一つしかなかった。最初デイビッドがそれを手に取っていたのだけど、僕が持っているヘルメットは入らないからと交換してもらった。横取りしたみたいになってしまったが、まあ、僕が1番背が高いから納得してもらえるだろう。
それから自転車のサドルにあたる鞍にも、大きく分けて4種類ほどあって、分厚い革製のウェスタンスタイルから、レース用の馬に使われる薄い皮だけの調教鞍などだ。木の柵にずらっと鞍が並べられていて、僕らは実物を見ながらサムエルの解説を受けた。
そこで僕がそれまで観光地で乗馬したときに馬の背中に載っていた鞍は、畑仕事用の馬につけられるものだということをそのとき知った。そして今回僕らが主に使うのはウェスタン鞍みたいだ。
一通りの道具の説明が終わると、馬が1人1頭ずつ紹介された。僕のパートナーは「ネイライダ」という褐色の牝馬だ。デイビッドには「ジンジャー」、バーニャには「ペプシ」がそれぞれ渡された。
僕ら生徒3名は、それぞれ馬の頭部にかけるロープ、日本語で頭絡(とうらく)のかけ方をサムエルから教わった。まず鼻面にロープをくぐらせ、後頭部にかけてから後頭部あたりで長さを調節する。軽くかけるだけで決して締め付けない。
馬は毎日のルーティンで慣れっこだから抵抗もしない。そして芝生の地面に置かれた黒いプラスチックの箱から、剣山みたいな硬い毛の大きなブラシをそれぞれが選んだ。馬に常に話しかけながらのブラッシングは、馬とコミュニケーションを取るための大切な時間だ。小さな頃柴犬を家で飼っていたけれど、もちろんブラッシングする面積は馬の方が途方もなく大きい。
それにしてもネイライダの毛並みはつやつやと潤いがあって、大切に育てられてきたことがよく分かる。そして馬の重い足を持ち上げて、蹄の間に入った泥や石をかぎ型のピックで取り除く方法を丁寧に教わった。
馬の膝に当たる部分に自分の肘をあてがって、脚を曲げさせながら、足首をつかんで持ち上げるのは結構力がいる。女性のバーニャには相当に重いらしく、なかなかうまくいかないからサムエルが手伝った。そしていよいよ上に向いた足の裏には、たくさんの泥や小石がぎっしり詰まっていた。
僕は馬が3本足で体重をささえてくれている間に、それらをできるだけ丁寧にピックで引っかきだした。