3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

23話 日光がなければ生きていけない

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広大な草原を横切り、自然を感じるセッションへ

ひとまず馬たちを小屋に戻したら、今度はサムエルを先頭にして牧場のど真ん中を横切り、何度か柵のかんぬきを上げたり下ろしたり、柵の出入り口の丸太の間に体をくぐらせたりしながら、牧場の広い敷地を奥へ奥へと進んでいった。そこは緑以外に何もない原っぱだった。

 

「息を深く吸って、そしてはくんだ。地球のエネルギーを感じて」

 

ぼさぼさ頭のサムエルは風貌も話す内容も、ヒッピーをそのままおじさんにしたような人だ。僕ら生徒3人は言われるがまま、裸足になった。そして腕を大きく左右に開いて太陽に向かって胸を張り、深呼吸をした。普段草の上で裸足になることがないから、足の裏に冷たくて、ちくちくとした草の先端を感じて相当に気持ちよかった。

 

「太陽の光からエネルギーをもらって俺たちは生きている。植物や動物だってそうだ」

 

そう言いながら太陽の方を見るように僕らを促した。どうやらサムエルはこの場所で、生徒たちに自然について話すのがお気に入りみたいだ。高原の澄んだ空気は太陽の光を遮るものが一つもなく、おまけに雲もほとんどない。まぶしいから手をかざして直射日光を遮るのが当然の反射というものだが、サムエルは裸眼で日光を見つめ始めた。

 

「裸眼で太陽を見るのも、慣れればできるようになる。やってごらん」

 

そんなこと言われたって、いくらやっても目は痛い。それから僕にはそうするメリットも理解できず、体に悪そうなのでやめた。

 

「太陽はいろんなものを与えてくれる。草木は日光がなければ生きていけない。それから水。水と光だけでは俺たちは生きていけないが、恩恵ははかり知れない。みんな水を飲むたびに『ありがとう』って言うんだ」

 

そうやって真面目に言われると、だんだん人も光合成で生きられればいいのに、と変な気持ちが芽生えてくる。サムエルは人工的なものに頼ることをある程度よしとしながらも、できればないに越したことはないと真剣に考えているようだ。草原は森に囲まれているが、実はその森のさらに向こうから太い電線が1本だけ、エバーグリーンの牧場のはるか上を横切って反対側の森に消えている。

 

「この電線が、残念だな」

 

サムエルが誰に言うともなく、つぶやくのを僕は聞いていた。

 

この「自然に感謝し、人間も光合成して太陽と水だけで生きていきたいよね」的セッションを済ませ、もと来た馬小屋のほうへ戻る途中、スリランカアメリカ人のバーニャが、どうしてこの牧場のことを知ったのかと聞いてきた。

 

「雑誌に載っていたんだ。すごく面白そうな場所に見えたけど、なかなかここまで家族と一緒に来るのは踏ん切りがつかなくてね。だからたまたま1人旅ができるこの連休で来たのさ」

 

 僕がこの牧場にたどり着いたいきさつを説明した。

 

「私はね、知り合いや旅で知り合った友達が、この牧場がすごくいいよって教えてくれてね。それを聞いて、どうしても来たくなったの」

 

彼女は仕事を辞めて1年間、中南米を中心にゆっくり旅行をしている途中だと言った。時間はたっぷりあるから、これぐらいの寄り道はお手の物なのだ。