3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

26話 デスコネクタールセ(接続解除)

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納屋風小屋の外ではよく犬たちが寝そべったり、僕を待ち構えたりしている

 

日が暮れる前にシャワーを浴びたいとステファニーに伝えると、さっきのボイラーに薪をくべ、お湯を沸かしてくれた。シャワールームは人ひとりがやっと入れるぐらいの小さなスペースだが、肌寒い気候には熱が逃げなくてちょうどいい。

シャワーヘッドから出てくるお湯は熱く、霧のように細かく強く噴き出した。すぐにいっぱいに湯気が立ち込め、まるでサウナみたいになった。だけど、素朴な造りの木造シャワールームは当然ながら、扉1枚が頭の高さと膝の下ぐらいまでを隠すように脱衣場との間を仕切っているだけだ。だから冷気が上から下から入り込んでくる。急いで身体と頭を洗い流すと、バスタオルをかぶって短パン、Tシャツ、ビーチサンダル姿で僕の部屋に駆け込んだ。

ジーンズと新しいシャツを着て、やっと僕が泊まる部屋でベッドに腰を落ち着けることができた。朝からずっと移動や乗馬セッションだったから、ほっとした。ふと携帯電話の画面を確かめた。母屋のWiFiはここまで届いていないし、電話も当然電波がない。

 

「デスコネクタールセ・デ・トド(すべてから接続を解除する)」

 

エバーグリーン牧場の楽しみ方を、ステファニーはこう表現していたのを思い出した。

太陽の光をいっぱいに浴び、シャワーを浴びてすっきりした僕は、心地よい疲労のせいで気分が少し高揚していた。

夕暮れ時、僕はもう一度母屋の方に出かけた。誰かとしゃべりたかったのだ。初日から牧場主のステファニー、サムエルの家族と出会い、馬乗りビギナーズクラブのデイビッドやバーニャと、自然の中をいっぱい歩いた。同じ体験をするから自然と連帯感が沸くのは、ビーチリゾートでの宿泊客同士の関係とは大きく違う。

そしてまんまとデイビッドとバーニャに途中で会えた。僕は、彼らが泊まる部屋を見せてもらえることになった。

2人が泊まるもう1つの宿、「ザ・コテージ」の中を見せてもらった。そこは僕が泊まる納屋風小屋より、かなりしっかりした造りになっていて広かった。玄関を入ると左側に暖炉があり、そこで薪をくべて暖を取ることができる。

しばらくしてサムエルが薪をいくつか持ってきて、マッチを使って火を点け、じわじわと木に燃え広がっていった。

炎がゆっくりと広がり、煙はその上部にある煙突に吸いこまれていく。日が暮れてすっかり肌寒くなってきたチアパスの高原で、僕ら馬乗り初心者3人は、サムエルが静かに語る「火」についてのうんちく話に耳を傾けながら、暖炉の周りに集まってじっと火を見つめていた。美しく暖かい炎がそこにあった。