クリスマスを間近に控えているはずなのに、村には華やかな祭りの雰囲気はない。だけど教会では連日ミサだけはしっかり行われている。この村で唯一辟易したのは、夜六時頃から牧師が村人たちに大音量のマイクで説教をがなりたてていたことだ。
聞きたくなくてもあまりに音が大きく、サムエルやステファニーたちと母屋で食事をしている間も、無理やり耳に怒鳴り声が入ってくる。牧師は自分の言葉に酔いしれているようだが、内容はすごく単純だ。
「お酒を飲みすぎちゃあいかんぜ、君たち」
「奥さん以外の女に手を出しちゃならんぜ、君たち」
そんなふうに延々と繰り返し説いている。このあたりの村では、酔っ払いのおじさんが女の子に悪さをする事件がよく起きるのかも知れない。
「これって洗脳だよね。スピーカーで大きな音を出して」
サムエルは、話の内容よりも、マイクやスピーカーで音を増幅するやり方が気に入らないみたいだ。
でも、そんな騒がしい長時間ミサも、午後八時を前にして突如静まった。夜の牧場の照明と言えば、母屋とゲストハウスから漏れる黄色い電灯の光以外なく、月明かりはまぶしいぐらい強い。
大気汚染もなく乾燥した大気の中で、オリオン座やら何やら、星のことはまったく詳しくないけれどワサワサと見える。食事を終えた僕は、自分の泊まる小屋に戻るために、芝生の大地を横切る数分間、明るい夜空と母屋からの光に見とれ、立ち止まっていた。
板を組み合わせてできた、我が「納屋風小屋」の部屋には暖房なんか当然なくて、とにかく部屋の中は寒い。
さっきのデイビッドたちの暖炉付き小屋とは、ギャップがえらく激しいなと思いながらも、ベッドに畳んで置いてあった毛布をあるだけ重ねることにした。2段ベッドの下側で寝ることにしたけれど、使わない上の方からも毛布を集めると全部で4枚になった。
早速その中に潜り込むと、体は確かに温かいが、逆に毛布から出ている顔がぴりぴりと肌がひきつるほど寒い。だから目だけ出して鼻まで毛布をかぶり、息が外に出ないようゆっくり呼吸することにした。電気を消すと小さな窓の向こうに、さっきまで家族と団らんしていた母屋からの黄色い光が見える。
小屋と母屋の間には、麻ひもで編んだ手作りのバレーボール用ネットがある。外は星と月の明かりのせいで明るいから、部屋の中の方が電気を消すと暗い。
そうそう求めていたのはこの感じ。人工的なものを極力排除した場所で、インターネットや便利な電化製品のない中、空を見、ただ息を吸ってはく。こんなシンプルな過ごし方こそ、ぜいたくと言えるのかもしれない。
そして世界中から「この感じ」を求めて、たった二つしかない宿泊用の小屋をめぐり、エバーグリーン牧場には競い合うように予約の依頼が入るのだ。