3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第37話 後ろがついてきてないみたいだ

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山はいつも雲が近い。僕らは森の中で馬の背中にしがみついた。

 

その一方で、ゆっくり歩いているときには、油断していると突然立ち止まった馬は地面の草をぶちぶちとむしって食べ始める。馬たちにとっては牧場の敷地内が、サラリーマンでいうところの「職場」や「事務所」みたいなもので、森の中は窮屈な空間から解き放たれ、温泉にでも旅行で来ている感覚に近いのかもしれない。

 

一度草を食べ始めると、結構力を込めて手綱を引っ張り上げ、「ウォーク」と大声で合図しないといつまでたっても草を食べている。人間だったら全身を使って両手で引っこ抜くのにも一苦労しそうな、地面に固くはりついた草を、彼らは草食動物特有の平たい歯で簡単にむしり取る。その鈍くて大きなぶちぶちという草が引きちぎれる音を聞くのは、少し不気味でもある。馬のあごや頬についた立派な筋肉が、どんな草でも契りとり、咀嚼できるようにできていることがよく分かる。

 

森の中を歩いたり、走ったりしている途中、二度にわたって、僕の後ろについてきているはずのスウェーデンから来た二人が見えなくなった。前も後ろも木だらけで、くねくねと森の中を突き進んでいくから、必死で前についていかないと簡単においていかれてしまうのだ。

 

「デイビッド、後ろがついてきていないんだ」

 

大声で知らせる僕の言葉を受けて、クールに装っているが実は結構余裕がないはずのデイビッドが、何とか先頭のサムエルに知らせてくれた。一度目は少し進むスピードを緩めてくれたので、アクセルが後からついてくるのを見届けることができた。

 

でも二回目になると、サムエルは後ろの二人を待とうとしなかった。でも、後でなぜ止まらなかったかを知った。実は森の中のこの細い獣道は、知らない間にどこかでループ状になっていて、元の場所に戻れるようになっていたのだ。

途中で馬が言うことを聞かなくなって、木の株がある少し開けた広場で馬に乗ったままじっと待っているアクセルとアナのところに、サムエル、バーニャ、デイビッド、そして僕の四人は無事合流した。

 

二頭とも夢中で草を食べている間に、とうとう人間の言うことが聞こえなくなったみたいだ。そして二人も「まいっか。なんかこの散策ツアー、ハードそうだし」などとスウェーデン語でこっそり話し合い、ひたすら馬の上で待つことに決めたようだった。