3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第42話 電波のなる大きな木を目指して

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牧場の裏手から僕は携帯電話の電波を目指した。

小川があると聞いていたので、探したが、見つけることができたのは今にも乾いてしまいそうな水の流れだけだった。その上に橋があると地図に描かれているが、橋というよりは、道の下にその水が通っているだけのようにしか見えなかった。

 

でもこれで合っていると信じて、次に目指したのは教会だ。

 

ステファニーの地図で強調されているところを見ると、どうやらこの曲がり角がキーポイントで、ここさえ間違えなければ電波を受ける「魔法の木」にたどり着けるらしい。教会は真っ白な建物で、一見何の目的で建てられたのか分からない小屋だった。でも十字架のマークが控えめに飾られていたので、かろうじてそれだと分かった。いや、分かったというより、そうに違いないと自分に言い聞かせて進むことにした。

 

そのY字路を右に進めば間もなく目的地のはずだ。地元の女性たちが四人ほどで並んでどこかを目指しているのにすれ違った。みな長い髪をしっかりと結わえ、同じような衣装を着ていたので、クリスマスに関係するミサに行くのかもしれない。しばらく歩くと小さな民家が五軒ほど並ぶ道に出た。

 

一軒の軒先には、白黒のぶち模様をした小豚がロープでつながれていて元気に動き回っていた。そしてその民家と民家の間に急な坂道が山の方向に現れたので、地図に従い登り始めた。だけどそのまま進んでも、なかなかそれらしい木にたどり着かない。

 

チアパスの険しい山には、大木なんていたるところにある。ステファニーは「すぐ分かるわよ」と言ったが、民家がやがて途切れ、細い山道に入っていく直前でいよいよ不安になった僕は、いったん民家のある方へ引き返すことにした。そして家の庭で遊んでいる子供や、家の裏庭で洗濯物を干している女性に「電話の電波が入る木はどこですか」と道を確かめた。

「ああ、携帯電話ね。ここを登って行けば分かるよ」

地元の人たちは、このアジア人はよりによってこんなところまで来て、何を電話で話したいのかね、と怪訝そうな表情を隠そうともせず、かなり大雑把な道案内をしてくれた。