母屋で家族のみんなと二日目の夕食を済ませた僕は、また暖房のない寒い小屋の中で目のすぐ下あたりまで毛布に潜り込んだままぐっすり眠り、クリスマスイブの朝を迎えた。そのころには喉の痛みはすっかり消え、爽快な気分で隣の共有キッチンに出ようと部屋の扉を押し開けた。だけど何か様子が違う。
そのキッチンではガスコンロでお湯を沸かしてお茶を飲んだり、夜には軽食のパンを食べたりしていた。
前日に近くの売店――といっても納屋にカップラーメンとパンと水やせっけんなどが置いてある四畳ぐらいのスペースだが――で買った小ぶりなホームメイドの黒糖パンを三つ、虫が入らないように袋の口を縛って木製の棚のできるだけ高い段に置いておいた。
それがどうも動物の歯のようなもので破られ、中身がほじくり返されて、半分ぐらいに減っていたのだ。
まず疑ったのは、いつもけたたましく牧場を歩き回っているニワトリたちだ。何せこのキッチンの窓にはガラスがなく、外との仕切りはあってないようなものなのだ。少々ジャンプの心得があるニワトリなら軽々乗り越えられる高さだ。しかも夜中の三時頃になると、朝だ朝だとうるさく叫び、せっかく寝ていても何度も起こされてしまうぐらい彼らは活動的なのだ。
でももし犯人がニワトリなら、僕が寝ている間に隣のキッチンでバサバサ羽音や鳴き声がしてきっと起きていたはずだ。
とすると次に思いあたったのはネズミだ。夜中に物音で目が覚めなかったことや、袋についていた歯形から、どうもそのほうが可能性が高いと僕は思った。牧場にはたくさんの家畜がいる一方で、夜な夜な活動する野生動物もいるのだ。
冷蔵庫がないキッチンで外に置かれた食料は、間違いなく動物たちのごちそうに違いないのだから、放置した自分が悪いとひとしきり反省した。残骸となったパンを生ごみ入れのバケツに入れて蓋をし、破れたビニール袋はプラスチック専用の大きな麻袋に入れた。世界の中心に人間はいないし、いろんな生き物との関係性の中で僕らは生かしてもらっているのだ。