3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第48話 散策ツアーと兄弟

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スクービーはずいぶん嬉しそうに山道の散歩についてきた。

その日、つまりクリスマスイブのメインイベントは夕食だ。僕はこの広い牧場でいろんな国の人達と一緒に食べるディナーにゲストとして招待されている。

でもそれまでには二時間ほど時間があるのでステファニーに他に何か楽しそうなアクティビティはないかときいてみた。すると地元の少年と行く村の自然散策ツアーに出るのはどうか、と提案があった。これまでいろんな国のゲストが、村の少年と朝から山に登り、珍しいキノコを見つけ、はたまた植物の解説を受けて喜ばれているというのだ。簡単に言うとエコツアーだ。

僕がディナーの前に散歩できるとしても、せいぜい一時間ぐらいだから、森の中に入ってゆっくりキノコを見つけている時間はない。だけど部屋に待機しているだけよりは楽しそうだからお願いすることにした。

 

「丘の上から近くの町の景色がきれいに見えるところがあるの。二十分も歩けば着くと思うから」

 

 そう言ってステファニーはガイドの少年に、この道を通ってこの坂を上ってと、細かく指示を出し始めた。空いた時間を利用した散歩だし、それほど期待しないでいい。身体はまだそれほど疲れていないし、多少牧場の外を歩き回るのも村の様子が分かっていいと思った。

 

ガイドはよく日に焼けた少年でチェペといった。弟のアベルを連れて、牧場の柵を何度もまたいだりくぐったりして、牧場の外の山道へと僕を連れ出した。トウモロコシ畑やカラフルな花を咲かせる植物の写真を撮りながら、とにかく少年二人について歩きまわった。チェペは十三歳で、アベルは八歳だ。それに牧場の飼い犬の中でも一番人懐っこい、クリーム色の小型犬「スクービー」が道中ずっとついてきた。

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まずは牧場を横切り、山道に出た。


山を練り歩くように未舗装の土の上を進むと、巨大な松ぼっくりがたくさん落ちていた。サン・クリストバルの近郊の標高二千メートルを超える高原地帯には、大きな松の木がたくさんある。形の整ったものがあったので一つ拾ってリュックにしまった。するとそれを見ていた弟のアベルがしばらくして、もっと大きくきれいなものを拾って僕に手渡した。

 

「きれいだね、これ。ありがとう」

 

とリュックにしまうと、無口な弟は恥ずかしそうに笑った。そのあといくつも拾ってくれたけど、松ぼっくりは大きさが二十センチほどもあるので、リュックの中はすぐいっぱいになった。戻ったら母屋に飾りとして使ってもらうつもりだ。