一時間も歩き回っていたら、エバーグリーン牧場にいつの間にか戻っていた。途中、何度も「ほら見て家だよ」とチェペは教えてくれた。だけど、結局ステファニーが言っていた「丘から見える村の美しい景色」らしきものは見当たらなかった。でも牧場の外の様子が分かったので満足だった。僕はお礼を言い、二百ペソ(千二百円)を渡して兄弟と別れた。決して安い金額ではないが、僕はステファニーに聞いていた金額をそのまま渡した。
ステファニーは仲介料を取らない。よそ者の外国人が牧場を運営しているのだから、少しでも地元の村人に還元しようという姿勢がこんなところからも伝わってくる。
部屋に戻ると共有キッチンの床に、デイビッドの荷物がごろごろと置かれていた。実はその日、以前からクリスマスを過ごしに来る予定だった、ステファニーたちの大親友マットが泊まりに来る。そしてデイビッドたちが泊まっていた「ザ・コテージ」に宿泊するのだ。
でもこの牧場が気に入ってまだ泊まりたいデイビッドとバーニャは行くところがなくなり、とうとう僕の泊まる部屋の逆側にある、ボランティア用のベッド四つ詰めつめルームに引っ越してきたのだ。そして、僕が明日宿をチェックアウトしたら僕の後に入るという算段だ。僕は前日に部屋の鍵を開けて―――とはいっても、扉が勝手に開かないように留め具をひっかけるだけだけど―――デイビッドとバーニャに部屋を見せた。
「クールだね、この部屋」
と二人は口々に言っていたが、おそらく暖炉のある部屋で過ごしていた彼らに、夜の冷気は想像できないはずだ。