そして二曲目はマルコ・アントニオ・ソリスというメキシコ人歌手の「トゥ・カルセル」を選んだ。二十年以上も前の曲だけど、メキシコで大ヒットした曲は、いつまでもラジオで流れ続けるから世代を超えて愛されている。この曲もその一つだ。
Te vas amor, si así lo quieres qué voy a hacer
(やっぱりいってしまうんだね、だったら僕には何もできない)
Tu vanidad no te deja entender
(見栄っ張りの君には分からない)
Que en la pobreza se sabe querer
(貧しくても好きなら関係ないということを)
Quiero llorar, y me destroza que pienses así
(そんな風に君が思っているなんて悲しくて泣きそうになる)
Y más que ahora me quede sin tí
(そして君がいなくなる今、もっと)
Me duele lo que tu vas a querer
(君がこれからどんなことを求めるだろうって考えると心が痛む)
Pero recuerda, nadie es perfecto y tu lo verás
(でも覚えておいてほしい、完璧な人なんていないし、それが分かる時が来るということを)
Tal vez mil cosas mejores tendrás
(これから無数の素敵なことに出会うかもしれない)
Pero un cariño sincero jamás
(でも真剣に愛されることなんてもう一生ないんだ)
貧しい主人公を見放して、金持ちに乗り換える元彼女への気持ち(未練と恨み言ですね)を歌った、メキシコの定番ラブソングだ。
僕がこの曲を選ぶのは、内容が好きとかそういう純粋な理由ではなく、歌うときに使う声域が狭いから、素人の僕にも歌いやすいという技術的な理由による。
それにしても本当にメキシコには「別れる」、「別れない」をテーマにした曲が多い。僕がこの曲を歌っている間、知っている人は一緒に歌ってくれた。なぜかこの曲は絶対知らないはずのアメリカ人のデイビッドも、隣から僕の歌詞カードをのぞいて楽しそうに歌っていた。
こんなに喜んでくれるなら、もっと曲を仕込んでおけばよかったと僕は少し後悔した。歌詞が覚えられないという最大の弱点を抱えた僕は、コード進行と歌詞を見ながらでないと一曲も歌えない。
なんだかもう一曲歌った方が盛り上がりそうだったので、勢いに任せて「ユアー・マイ・サンシャイン」を適当に伴奏しながら歌い始めた。ずいぶん短い歌詞なのに、やっぱり二番に入ると歌詞が出てこなかったので、ハミングでやり過ごしていると、代わりにみんなが大声で歌ってくれた。