3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第13話 エリック・クラプトン

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メキシコ北部の町できいたホーンセクション主体のバンダ


ダニエルとのレッスンに、僕は常に自分が弾いて歌いたいと思った曲をカセットにダビングしては持って行った。今考えるとなんともぜいたくなことをしていたのかと思うが、いつも次のレッスンまでにダニエルは曲のコード進行をメモしてくれていた。

 

「シンジもいずれできるようになるさ。曲を聴いたらコードが浮かんでくるようにね」

 

僕はその感覚がよく分からなかった。ダニエルが探してくれたコード進行を弾くことはできるけど、自分で曲を聴きながらコードを探し当てることは到底できない。

 

その日僕はエリック・クラプトンのバラードで当時えらくヒットした Tears in Heavenを持って行った。ダニエルからは、あまり大衆的なポップスは歓迎されないと覚悟していたのだが、意外にもエリック・クラプトンは別扱いだった。

 

「俺たちみたいなギターを弾くシンガーソングライターには、3つは柱がある。1つは作曲。2つ目は歌。3つ目はギター演奏だ。例えば俺は作曲、ギター、歌の順で得意だが、エリック・クラプトンはギター、歌、作曲の順になるだろうな」

 

「この曲はどうも死んだ息子についてかいた曲みたいだ。実は俺は彼のクルー(バンドメンバー)と親しくしていた。だけど、ある飛行機事故でみんな死んでしまった。それから息子も死んだ。本当に悲しい人生を彼は送っているんだ」

 

そう言って、間接的にでも近いミュージシャンであることを教えてくれた。

僕はそれまでエリック・クラプトンは、「スローハンド」と皮肉られる速弾きギターの名手で、「レイラ」という大ヒット曲を持つ人ぐらいにしか知らなかった。だけどそんなに親しい人をたくさん亡くして、何とか音楽で人生を生きている悲しい運命のアーティストだと知ることで、曲に対して解釈が全く違ってくることを経験した。

 

ダニエルは歌詞カードを持たない僕のために、歌詞を直筆で書き、その上にコードを記した。決してコードは悲しくないが、背景を知ったうえで歌詞を読むと実に悲しい曲だった。

 

Would you know my name if I saw you in heaven?

(もし天国で会ったら、俺の名前わかるかな)

Will it be the same if I saw you in heaven?

(もし天国に会ったら、おんなじようになるかな)

 

これが天国にいる息子に語り掛けているんだとしたら、相当につらい曲だ。売れ線狙いではない。

 

 

 

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