3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第16話 アンダードッグ・ラグ(負け犬のラグタイム)

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White Feathers in the Coop アルバムジャケット。

 

ダニエルの人生は音楽を土台にすべてが成り立っている。だけど何か事情があってアメリカに嫌気がさし、メキシコのオアハカで住むようになった。でも自分が成し遂げてきたこと(=過去)にほとんど執着がなくて、最低限の楽器以外は、何も持っていない。

 

僕がフィンガーピッキングをマスターし始めた頃、アンダードッグ・ラグという曲を教えてくれた。

 

「これ簡単だから真似して弾いてみな」

 

そう言って、見本を見せながらダニエルは相変わらず体に似合わない小さなギターでクリアーで乾いた音を鳴らし始めた。確かに使っているコードは少なく、指の動きも派手にネックを動き回る割には単純だった。要するにコードの抑え方をそのままにしてスライドさせる動きが多いので、激しく見えるのだ。

 

「アンダードッグ・ラグっていうんだけど、ほら、なんかうだつの上がらない犬いるだろ。その負け犬みたいなやつらをちょっと皮肉ったんだ」

 

聞くとピッキングで高い音を奏でる部分が犬の吠えている声に聞こえなくもない。そうして例によって僕らはラジカセのスイッチをオンにし、録音した。

 

僕は家に帰ってこの曲が派手で滑稽なので気に入って何度も練習した。そして次の週にはあまりつっかえずに弾けるようになっていた。

 

ところで後で気づいたのだけれど、ダニエルのギターのバックには犬の吠え声がかすかに録音されていた。僕は偶然のことににやりとしてしまった。この曲は彼が作曲して、White Wheathers in the Coopという初期のアルバムに入っている曲だと後で知った。そしてどうやら、オアハカのアパートには常に何かしら犬が周りにいたり、鳴き声が聞こえていて、何十年も前の曲を思い出させたのかもしれないと納得した。

 

そしてそれから何年かして、僕は日本でこの曲が収録されたアルバムを手に取った。確かにそこにはアンダードッグ・ラグという曲が入っていたが、僕が習った曲と全然違っていた。そしてアルバムを全部聞いていると、聞き覚えのある曲が流れてきた。てっきり犬がテーマになっている曲だと思っていたら、僕が習った曲の本当の名前はパイントゥリー・ラグというらしい。

 

自分の曲名さえ、あいまいになっていたみたいだ。本当に過去に執着がない。別に宣伝するわけではないけど、このアルバムは日本でも手に入るはずだ。

 

- White Feathers in the Coop by Dan Delsanto - Amazon.com Music