ダニエルは「あんたが作った曲に俺が歌詞をつけるから」と、コード進行と鼻歌の録音を宿題にその日はクラスを終えた。
僕は適当にコードを3拍子でかき鳴らし、ハミングでメロディを作った。
そしてダニエルに披露した。当然歌詞はない。
「わかった。来週までに歌詞を作って、披露するから待ってな」
でもこの曲にどんなメッセージを込めたいかときいてきた。
青二才だった僕は、この留学が終わるとすぐに仕事を見つけて、まず間違いなく会社員になるだろうことを知っていた。そして、それまでの時間が短いことに少し焦りを感じていた。何かまだやるべきことはないか、とか、このままサラリーマンになっていいのかと。そんなことをなんとなく拙い英語で伝えた。
「でもそれ以外に何か代替案はあるのか」
と彼は言った。痛いところを突かれた。
そもそも、何か自分に武器を身に付けたいという思いで、後先考えずに留学した僕は、ダニエルにギターを習ったからといってミュージシャンになるわけでもない。
「でも、ダニエルのようにミュージシャンという生き方もあるんだよな」
僕はそういったが、ダニエルは何も答えなかった。
そしてその次のレッスンで、「Spread Your Wings」という曲ができていた。
「この曲は明るくて、正統派なサビの盛り上がりが、まるでディズニーの曲のようだ」と相変わらず、ほめるのがうまい。
そして、内容は夢をあきらめるな、翼を広げて飛んでいけというメッセージソングになっていた。ちょっと恥ずかしくなるようなまっすぐな歌詞だったけれど、僕は自分の曲に英語の歌詞がついたことに有頂天になって、何度も練習した。
そしてダニエルにお願いした。
「記念に僕がコード伴奏と歌を歌うから、ダニエルはソロで飾り付けしてほしい。それをテープで録音したいんだ」
「わかった」
そうして、Spread Your Wingsのレコーディングが始まった。もちろんダニエルが即興で弾くソロは、ブルース調でかっこよかった。