3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第20話 セッション 飛んでいけ

ダニエルは「あんたが作った曲に俺が歌詞をつけるから」と、コード進行と鼻歌の録音を宿題にその日はクラスを終えた。

 

僕は適当にコードを3拍子でかき鳴らし、ハミングでメロディを作った。

そしてダニエルに披露した。当然歌詞はない。

 

「わかった。来週までに歌詞を作って、披露するから待ってな」

でもこの曲にどんなメッセージを込めたいかときいてきた。

 

青二才だった僕は、この留学が終わるとすぐに仕事を見つけて、まず間違いなく会社員になるだろうことを知っていた。そして、それまでの時間が短いことに少し焦りを感じていた。何かまだやるべきことはないか、とか、このままサラリーマンになっていいのかと。そんなことをなんとなく拙い英語で伝えた。

 

「でもそれ以外に何か代替案はあるのか」

と彼は言った。痛いところを突かれた。

 

そもそも、何か自分に武器を身に付けたいという思いで、後先考えずに留学した僕は、ダニエルにギターを習ったからといってミュージシャンになるわけでもない。

 

「でも、ダニエルのようにミュージシャンという生き方もあるんだよな」

僕はそういったが、ダニエルは何も答えなかった。

 

そしてその次のレッスンで、「Spread Your Wings」という曲ができていた。

「この曲は明るくて、正統派なサビの盛り上がりが、まるでディズニーの曲のようだ」と相変わらず、ほめるのがうまい。

 

そして、内容は夢をあきらめるな、翼を広げて飛んでいけというメッセージソングになっていた。ちょっと恥ずかしくなるようなまっすぐな歌詞だったけれど、僕は自分の曲に英語の歌詞がついたことに有頂天になって、何度も練習した。

 

そしてダニエルにお願いした。

「記念に僕がコード伴奏と歌を歌うから、ダニエルはソロで飾り付けしてほしい。それをテープで録音したいんだ」

「わかった」

 

そうして、Spread Your Wingsのレコーディングが始まった。もちろんダニエルが即興で弾くソロは、ブルース調でかっこよかった。