3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第23話 カセットテープとラテン

ダニエルと僕はとにかくカセットテープを多用した。

楽譜が読めない、いやそもそも楽譜なんかいらないという前提で教わっている手前、メロディーは書きとめられない。コード進行と歌詞以外は勘で進めるのだが、どうしても録音しないと思い出せないことが多い。

 

じっとダニエルの手元を見ながら、カセットに録音する。

一通り見聞きしたら、それを家に帰ってひたすら再現する。

 

テープは道端の露店商の友人から買った。足が悪いからずっと座っているけど、いいやつだった。

 

あるとき、僕がカセットにはノーマルとクロームとメタルというのがあって、音質が微妙に違うんだという話をダニエルにしたことがある。僕は中学校の時にクロームのカセットを主に使っていたので、ノーマルのカセットテープが物足りないような話をしたんだと思う。それから、彼が貸してくれた自分のCDをメタル製のテープにダビングしたことを伝えた。つまり一番高くて音質がいいのに入れたよと言いたかったのだ。

 

「メタルってなんだ。何か違うのか」

 

僕は音楽業界の主のような彼が、こんな質問をしてきたので逆に驚いた。

「メタルって磁気が強くて音の再現性も高いんだと思う。ただ、もともと録音していた音楽の上にオーバーダビングすると、うっすら前の音が聞こえることがあるんだ。例えばドン・ヘンリーのアルバムを聞き飽きたからオルケスタ・デ・ラ・ルスを録音したら、後ろで小さくドン・ヘンリーが歌っているなんてことが起こる」

 

「それは知らなかったぜ。でも今のたとえ最高にいいね。ドン・ヘンリーをやめてオルケスタ・デ・ラ・ルスか」

 

僕が適当に言ったたとえを彼はぶつぶつと繰り返していた。彼は商業主義的な音楽を嫌っていて、ラテン音楽をこよなく愛していた。そしてルーツをたどってアフリカが彼のすべてだ。そしてよくこういった。

 

「ラテンほど洗練された音楽は存在しない」

 

イーグルスドン・ヘンリーが別に好きでも嫌いでもないけど、少し彼らに申し訳ないたとえをした気がした。でも日本初のサルサグループのオルケスタ・デ・ラ・ルスが、アメリカ大陸で普通にヒットしているのを知って誇らしかった。もちろんダニエルも知っていた。

 

「私はピアノ」がメキシコのテレビのトークショーで演奏されて、半分日本語で歌われたときは、特によく覚えている。僕は昼間、アパートで貸してもらっていた白黒テレビにかじりついて見ていた。

 

夜がこわいよな女にゃ、それでいいのよすべて・・・。

 

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