「もう今さら何を言ってもしかたがない。ただ、シンジがオアハカからいなくなるのは寂しいよ」
僕のギターの先生はアメリカ人だ。日本的な奥ゆかしい表現はしない。
ストレートに僕が上達したことを自分のことのように喜び、これから、どうやって続けていくかのアドバイスをくれた。
「日本にだってギターの先生はいるはずだ。自分で見つけて、教えてもらうといい。それがかなわないなら、もう自分で学ぶことができるレベルにまで来ている」
そうやって心配するなと僕を勇気づけた。
もう、最後の授業で何をやったかは覚えていない。ただ、最後に記念撮影させてくれとお願いした。そして僕と彼の文字が往復書簡のように入り乱れたキンバリー製のノートの最後のページにサインをもらった。
彼はたぶん、メキシコに移住して、アメリカでテレビやラジオなどのメディアから遠ざかり、サインをねだられることがしばらくなかったんだろう、少し恥ずかしそうに小さく自分の名前を書いた。
本当だったら写真を載せたいところだけど、今はその許しを請うこともできない。
だから、やめておく。