チェトゥマルの空港に到着したのは、正午前だった。
メキシコシティから出発したのは8時半で、所要時間は2時間ちょいだが、世界的ハネムーンの行き先であるカンクンを要するキンタナロー州は、時差で1時間先に進んでいる。
空港に着いて、宿泊先に移動する乗り合いタクシー乗り場がどこにあるのか知らないことを思い出した。南部は暑いはずだが、さすがに12月半ばなので長袖のシャツがちょうど良い。
ガイドのエセキエルとは出発前にメッセージアプリのワッツアップで、翌朝6時にホテルに迎えにきてもらう約束をした。そして、直接空港からホテルのあるイシュプヒルまでタクシーをチャーターすると、高いからと、乗り合いタクシーをすすめられていたのだ。グーグルマップで場所も送ってもらっていたが、肝心のそこまでの移動は、歩きなのか、タクシーなのか、バスなのか聞いていなかった。
普通だったら、空港の中のカウンターで空港専用のタクシーに乗るところだが、一人旅だし今日中に宿泊先に着けばそれでいい。
「さて、どちらに行かう(行こう) 風が吹く」
by 種田山頭火(1882〜1940 詩人)のスピリッツである。
というわけで、激しい客引きの応酬は無視して、空港の外に出た。そこで治安維持をしていた陸軍の若い兄さんたち3人組に声をかけ、乗り場までの行き方を聞いてみた。連邦政府管轄の空港内で治安を維持するというミッション上、強面を装っているけれど、変な事件さえ起こらなければきっと暇でもあるはずだ。僕が話しかける前に、1人の中年女性によろこんで道を教えているところを、ちゃっかり目撃していた。
「あああ、それね。空港タクシーで行く方法もあるけど、ここずっと歩いて200メートルぐらい歩くとタクシーが停まっているから、聞いてみて。そっちの方が安いから」
まあ、ケチる必要もないのだけれど、せっかく教えてもらったし、とタクシーがたむろしているという道路まで歩くことにした。
そもそもいったん空港の外に出たら、一方通行の出口は逆戻りできない仕組みになっていて、入りなおすには大回りしなくてはならない。だからキャスター付きの黒いキャリーケースをガラガラ歩道で引っ張りながら、まっすぐロータリーのあるところまで歩いた。途中マヤ鉄道の真新しくて大きな駅があったが、スルーした。まだ稼働していないようだった。
そんなわけででこぼこした歩道から一般道に出ると案の定、タクシーが5台ほどたむろしていて、運転手が声をかけてきた。空港ではどこも、200メートルぐらい歩けば半額で乗れる普通のタクシーが待ち構えている。確かに空港を出てすぐ車に乗れれば簡単だけど、面白くないし発見がない。
というわけで、ひとり旅の時は、極力ピカピカのチャーター便タクシーではなくて、地元の人が乗る交通手段を探すことにしている。こういう地元のタクシーは値段が決まっていることを前回のチアパスへの旅行でわかっていたので、80ペソでイシュプヒル行きのタクシー乗り場へ連れて行ってもらった。値段交渉はタクシーの運ちゃんの表情を見れば不要かどうかわかる。作り笑いがあるかどうかが判断基準だ。無愛想で目を見て本当のことを言ってそうなら言い値で乗るのが良い。