3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第22話 I Give In

ダニエルは、レッスンの合間や始める前にいつの間にかギターのデモンストレーションをしていることが多い。呼吸するみたいに音楽が「出てくる」んだと思う。

 

その中で何度も彼のオリジナル曲ーー毎日作曲しているから自分の曲が無限にある―ーを披露してくれるシーンがあった。中でも3拍子の曲で「I give in」という、彼にしてはさわやかなメジャー調でしかも弾きやすいシンプルなコード進行だった。

 

I still can be found on this merry-go round

I can't seem to get off, I can't seem to slow down

I go round and around with my head in a spin

I can never give up, but sometimes I give in

 

I give in, Igive in

I give in to my heart

I give in to my whim

 

I try hard to do what you all want me to

But it seems that my mind has its own point of view

And I can't help but thinking these wild restless thoughts

But to live out your dreams you must pay the cost

So I hard to quiet thesse voices within

But sometimes I am weak 

And sometimes I give in

 

訳詞を付けるのが難しい内容だし、本人は望まないかもしれないけど概要はこうだ。

 

メリーゴーラウンドはぐるぐる回っていて、止まれないし下りられないみたいに見える。

人がやってほしいことと、自分の考えは違うけど、何とか落としどころを見つけようと頑張ってるし、それには代償もともなう。

でも時にはどうしても自分がやりたいことを貫きたくなることがある。

その気持ち抑えようと思うけど、やっぱり自分の思いにゆだねるときがある。

 

こんな内容だ。I give inというのは、たぶん譲るっていう意味だと思うんだけど、僕は英語ネイティブではないので本当に意味するところは想像するしかない。

ダニエルはたぶん、生活するためにがまんしないといけないことが人生には多いけど、人の意見に逆らってでも自分の声に従うことを何度も経験して、いろんな壁にぶち当たっては、歩き続けているのだと思う。ミュージシャンで生きることって、本当はそんなに簡単ではないんだろう。

 

僕は、学生の頃、何度この歌詞を見ても意味が分からなかった。けど今こうして当時の彼と同い年になりつつある中、何となく「I give in」で言いたいことがおぼろげながらわかりつつある気がする。

 

仕事や自分のやりたいこと、家族や時間の制約なんかの中で、どう折り合いをつけるか。悩みながら、でもたまには自分の思う通りに行動しようって思うことがある。だけどその割合は年を重ねるごとに減ってきている気がする。それは言われた通りにする方が楽だからかもしれない。そして自分を抑え込んでいるのかもしれない。

 

イントロで彼がピックを使って弾くアルペジオは、かっこいいが、結局僕にはまねできなかった。でもずっと心の中で今も響いている。

 

 

発売開始! 「山と電波とラブレター」全国の書店で。

とうとう、今週11月10日、日本の書店で発売開始された「山と電波とラブレター」。

都市部を中心に、大型の書店では見かけていただけるかもしれません。

 

紀伊国屋書店さん32店を皮切りに、ジュンク堂さんや丸善さんなどでも販売開始されています。

 

メディア向けプレスリリースや、出版社のパレードブックスさんのブログなどでも紹介されています。

 

プレスリリース(PR TIMES

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000158.000046294.html

ブログ(パレードブックス)

https://ameblo.jp/paradeppress/entry-12708925611.html

 

必ず置いてあると教えてもらったお店をちょっとだけ紹介します。

僕の知らない誰かの手に届いたら、こんなうれしいことはありません。

 

東京

紀伊國屋書店新宿本店
ジュンク堂書店池袋店
丸善丸の内本店
明正堂アトレ上野店
ブックスルーエ
有隣堂 目黒店
武蔵野市 ジュンク堂書店
丸善多摩センター店
あおい書店中野本店

 

神奈川

丸善ラゾーナ川崎
ブックファースト モザイクモール港北
ブックファースト青葉台
ジュンク堂書店 藤沢店
ブックファースト 青葉台
有隣堂 藤沢店

 

大阪

ジュンク堂書店難波店
ジュンク堂書店大阪本店
M&J梅田店
ジュンク堂書店天満橋
ジュンク堂書店上本町店
喜久屋書店阿倍野
リブロなんばウォーク

 

兵庫

ジュンク堂三宮店
ジュンク堂書店三宮駅前店
ジュンク堂書店姫路店
ジュンク堂 西宮店
興文堂書店

 

静岡

MARUZEN&ジュンク堂書店新静岡
アマノ 入野店

 

愛知

らくだ書店本店
精文館書店本店

 

長野

丸善松本店
松本駅改造社書店
サンマックス 松本店

 

新潟

紀伊國屋書店新潟店
ジュンク堂書店新潟店
中長書店

 

福岡

丸善 博多店
ジュンク堂書店福岡店
朝日屋書店
丸善博多店

 

北海道

MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店
ジュンク堂書店旭川

 

ありがとうございます。

 

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平積みされているお店もあるようです(日本の知人撮影)。写真は丸善 川崎店さん。

 

第21話 Wild Wood Flower

ダニエルは、本気で僕がミュージシャンを目指すなら、と冗談なのか本気なのか分からない指南をし始めた。もう日本に帰る日が近づいているからだ。

 

「今、レパートリーは50曲だろ。1回のショーで15曲ぐらい用意しておけば東京のバーで演奏できるはずだから3回分のコンビネーションは用意できているわけだ」

 

半年たった僕のノートにはたくさんの曲の歌詞とコード進行が並んでいた。ラテンアメリカの曲、英語や日本語の曲もある。

 

「それから、ギターは日本に帰っても続けてほしい。練習の仕方は2つある。つまり先生について習うか、それとも自分で学ぶかだ」

 

ダニエルは自分のような先生を見つけるのがいいが、そう簡単に見つからないだろうから、本やビデオで学ぶオプションも考えておけといった。ブルースやジャズに照準を合わせて探せばいい。

 

彼は自分が教えた生徒で優秀だった人はみんな音楽業界で活躍していると話し始めた。

「一人はギタリストになった。その他にもミュージシャンにはならなかったが、プロヂューサーとして活躍しているやつもいる。そしてシンジも、レベルはいい線いっているからそのまま続けて道を開いてほしい」

 

お世辞でもうれしいし、なんだかよく分からないが力がみなぎってくる言葉だった。何しろ相手はプロで、活躍してきた人だ。

 

「一つ先生として後悔していることがあるとすれば、ピックの練習をあまり取り入れなかったことだ」

確かに僕は自分の指でフィンガーピッキングをするのが好きだったから、あまりプラスチックのピックでダニエルが超絶技巧で弾いても、教えてほしいとねだったことはなかった。難しそうだったし。

 

「これは俺が普段使っているピックだ」

と言いながら、朱色の小さなピックを僕に手渡した。今から練習するのも時間がないが、自分で練習しろということだった。

 

そしてWild Wood Flowerという曲を教わった。

「この曲はラジオのDJをしていたとき、オープニングで弾いたりしていた」

すぐには弾けなかったが、僕はその単純なのに美しい短い曲を何度も繰り返し練習した。ピックを使って弾く僕の唯一の曲だ。

 

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好きな旅行記10選

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選

 

思い出したり、本棚あさって並べてみました。順不同というか特に1位から10位で並べたわけではありません。

 

1.表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

 

オードリーの若林正恭が書いたキューバ紀行。

一人でホテルをネット予約したり、有名人がするかという作業をどきどきしながらやっているのが伝わってくる。別にオードリーのファンではないですが、単純に本として面白かった。

それにしてもおやっさんが大好きだったんだなあ。

 

 

2.辺境・近境

 

村上春樹があちこち行った紀行文集。

僕が住んでいるメキシコのことが書いてあって、さらに友達が文中に登場してびっくりした。そういえば道中どうやら死体だと思われる体を目撃するシーンがあるけど、そう、メキシコではあっけらかんと生と死が隣り合わせなのです。

 

 

3.インドでわしも考えた

 

椎名誠のインド紀行。正直読んだのは中学生の頃なんだけど、とにかくこれはとんでもないところなんだなとインドに対して感じたのだけを覚えている。滑稽な出来事だらけで、かつ異様な警戒感が僕の中にふつふつと沸いた。社会人になってインドで仕事したけど、そのまんまだった。

 

 

4.ほげらばり

 

小林聡美著。普通のメキシコの観光なんだけど、この女優から見たらなんでも不気味でおかしくて、発見だらけになるんだなあと感心した。ビーチのアメリカ人の様子を描いたシーンが、そうそうこんな感じと納得した。これも何十年も前に読んだけど、懐かしくて最近読み返しました。

 

 

5. スリー・カップス・オブ・ティー

 

アメリカ人登山家がパキスタンに学校を建てる話。旅行記というよりは冒険記かな。タイトルは1杯目はよそ者、2杯目はお客、3杯目は家族とあるように、よそ者だった主人公がパキスタンの山村に溶け込む、長老を中心としたやさしい社会が行ったことがないけど、懐かしい感じです。

著者のデイヴィッド・オリヴァー・レインさんは、よくもこの登山家グレッグ・モーテソン氏のあいまいな記憶を本にしたなと感心。

 

 

6.ラオスにいったい何があるというんですか?

 

村上春樹著。あまり旅行記の対象になりそうにない、アメリカのポートランドや、アイスランド紀行がたんたんと描かれている。特に冒険でもなく、ハプニングも何も起こらないけどつい読んでしまうのは筆力のせいなんでしょうね。

 

 

7. アメリ

 

写真家 藤原新也アメリカ紀行。アメリカをどう描くかは人によって全然違う。大学のときに社会学のゼミで読んだけど、よくもまあ、アメリカという日本でおなじみの国をここまで切り取って考察したなあと驚いたのを覚えています。

 

 

8.深夜特急

 

沢木耕太郎さんのせいで、何人の人がアジアにバックパック担いで旅に出たんだろう。僕が読んだのは社会人になってからなので、もうそんな無茶な長旅はできない時期だったけど、うなされるような熱気が伝わってきた。でも著者が旅が終わって何十年もたってから、お金の支出先を記していたノートを元に書いたという話を読んで、そういう方法で書くのもあるのかと妙に感心したのを覚えている。

 

 

9. Eat, Pray, Love(食べて、祈って、恋をして

 

短編小説集の中で一番僕が好きな「ピルグリム」の著者エリザベス・ギルバートの本。ジュリア・ロバーツが志願して映画化されたときの主人公を演じたみたいです。いろんなところに行った話が書いてあるけど、イタリアのことを描写している前半がすごく印象に残っている。実用的ではまったくないけれど、快楽のためにある言葉、食事、国。実際に行ってみたらイタリア人、イタリア料理、イタリア語・・・人生楽しまないと損。あんた難しい顔して損してるよ、っていう声がいたるところで本当に聞こえてくる国だった。

 

 

10.山と電波とラブレター

 

すんません。ネタがなくなったので、拙著です。9選だったら入れなかったのですが、どうしても1つ足りないので無理やり入れました。

メキシコのエバーグリーン牧場というフランス人とアメリカ人が運営する山奥の小屋に泊まったときの滞在記。本ブログで連載したのですが、出版します。好きな旅行記というより、好きになってくれたらうれしいなという旅行記です。

 

 

 

 

 

第20話 セッション 飛んでいけ

ダニエルは「あんたが作った曲に俺が歌詞をつけるから」と、コード進行と鼻歌の録音を宿題にその日はクラスを終えた。

 

僕は適当にコードを3拍子でかき鳴らし、ハミングでメロディを作った。

そしてダニエルに披露した。当然歌詞はない。

 

「わかった。来週までに歌詞を作って、披露するから待ってな」

でもこの曲にどんなメッセージを込めたいかときいてきた。

 

青二才だった僕は、この留学が終わるとすぐに仕事を見つけて、まず間違いなく会社員になるだろうことを知っていた。そして、それまでの時間が短いことに少し焦りを感じていた。何かまだやるべきことはないか、とか、このままサラリーマンになっていいのかと。そんなことをなんとなく拙い英語で伝えた。

 

「でもそれ以外に何か代替案はあるのか」

と彼は言った。痛いところを突かれた。

 

そもそも、何か自分に武器を身に付けたいという思いで、後先考えずに留学した僕は、ダニエルにギターを習ったからといってミュージシャンになるわけでもない。

 

「でも、ダニエルのようにミュージシャンという生き方もあるんだよな」

僕はそういったが、ダニエルは何も答えなかった。

 

そしてその次のレッスンで、「Spread Your Wings」という曲ができていた。

「この曲は明るくて、正統派なサビの盛り上がりが、まるでディズニーの曲のようだ」と相変わらず、ほめるのがうまい。

 

そして、内容は夢をあきらめるな、翼を広げて飛んでいけというメッセージソングになっていた。ちょっと恥ずかしくなるようなまっすぐな歌詞だったけれど、僕は自分の曲に英語の歌詞がついたことに有頂天になって、何度も練習した。

 

そしてダニエルにお願いした。

「記念に僕がコード伴奏と歌を歌うから、ダニエルはソロで飾り付けしてほしい。それをテープで録音したいんだ」

「わかった」

 

そうして、Spread Your Wingsのレコーディングが始まった。もちろんダニエルが即興で弾くソロは、ブルース調でかっこよかった。

第19話 Jazzへ

ダニエルはよく僕がテープに録音した曲を持っていくと、宿題として持ち帰ってくれてコードを探して、弾き方を教えてくれた。

 

その中でもよく覚えているのが、ニーナ・シモンの歌う「Love me or Leave me」だ。

もともとメキシコ人の観光ガイドの友達が教えてくれた曲で、いわゆるジャズのスタンダードな名曲に数えられるのだと思う。

 

ハスキーで野太い声がセクシーで、私のこと好きなの、そうじゃないのみたいな言葉で迫ってくる。

 

ダニエルは僕がそれまで習ったことがないディミニッシュトコードなるものを持ち出してきて、

「そろそろ、次のステップに行く頃かもしれないな」

とつぶやいた。

 

「ジャズはブルースとつながっている。けど、結構理論的に高度な部分があるし、コードも少し変則的だ」

 

そういいながら、Love me or Leave meとギターを刻みながらバリトンで歌い出した。

彼の部屋は、がらんとした石づくりで、オアハカ特有の乾いた空気がギターのコードをくっきりと浮かび上がらせる。僕はそのコード進行に聞き入った。ただかっこよかった。

 

僕は家に戻って何度も練習したが、ツービートのリズムを、変則的な押さえ方のコードで刻むのが難しく、結局歌いながらなんてとてもじゃないけどできなかった。

フレットを押さえる左手も、あるコードの時は小指が内側にそって曲がってしまいうまく力が入らないのだ。

 

今となっては、僕の残念ながら弾き語りリストにコード進行表が入っているが、人前では弾けない曲としてずっと課題として残っている。

 

この曲を教わった頃、つまり習い始めて1年たったある日、ダニエルに僕は告げた。

「もうすぐ日本に帰ることになった。大学に復学しないといけない。だからレッスンはあと1か月しか受けられないんだ」

 

ダニエルは大げさに驚いたように僕には見えた。

「シンジがいないオアハカか。味気ないな」

 

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「山と電波とラブレター」発売日が決定しました!! 11月10日です。

 

 

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11月10日発売予定。

 

いよいよ、発売日が決定しました。

すでにAmazonでは先行予約が開始され、旅行記ランキングでも50位以内に入りました。

まだ、発売していないのですが、ありがたいことです。

 

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本日朝のランキングは20位でした。

本人の私もまだ、現物を見ていないのですが、不安なような、わくわくするような感じです!!