3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

ダニエルからギターを習う

まったく楽器を触ったことがない僕がプロのギタリストに偶然出会い、レッスンを受ける。日本の音楽教育とは全く違う自分流を伸ばす方法で「教える」「習う」について見直すことができた新連載。

第26話 最終話 再会、お別れ(2)

僕はダニエルにその後、一度だけ再会した。 短い夏休みを利用して、オアハカを訪れたのは、就職してから数年たってからだ。 メールやインターネットがまだ普及する前だから、どうやって待ち合わせたか覚えていない。だけど彼はメキシコ人の地元ミュージシャ…

第25話 再会、お別れ(1)

小さなオアハカの空港を発つと、大都会のメキシコシティへ50分ほどで着く。 最後の日、友人たちが見送りに来た出発口で、僕は寂しいというよりは、お世話になった土地への感謝と、これから日本になじめるのかという不安で感傷的になっている暇はなかった。 …

第24話 最後の授業

「もう今さら何を言ってもしかたがない。ただ、シンジがオアハカからいなくなるのは寂しいよ」 僕のギターの先生はアメリカ人だ。日本的な奥ゆかしい表現はしない。 ストレートに僕が上達したことを自分のことのように喜び、これから、どうやって続けていく…

第23話 カセットテープとラテン

ダニエルと僕はとにかくカセットテープを多用した。 楽譜が読めない、いやそもそも楽譜なんかいらないという前提で教わっている手前、メロディーは書きとめられない。コード進行と歌詞以外は勘で進めるのだが、どうしても録音しないと思い出せないことが多い…

第22話 I Give In

ダニエルは、レッスンの合間や始める前にいつの間にかギターのデモンストレーションをしていることが多い。呼吸するみたいに音楽が「出てくる」んだと思う。 その中で何度も彼のオリジナル曲ーー毎日作曲しているから自分の曲が無限にある―ーを披露してくれ…

第21話 Wild Wood Flower

ダニエルは、本気で僕がミュージシャンを目指すなら、と冗談なのか本気なのか分からない指南をし始めた。もう日本に帰る日が近づいているからだ。 「今、レパートリーは50曲だろ。1回のショーで15曲ぐらい用意しておけば東京のバーで演奏できるはずだから3回…

第20話 セッション 飛んでいけ

ダニエルは「あんたが作った曲に俺が歌詞をつけるから」と、コード進行と鼻歌の録音を宿題にその日はクラスを終えた。 僕は適当にコードを3拍子でかき鳴らし、ハミングでメロディを作った。 そしてダニエルに披露した。当然歌詞はない。 「わかった。来週ま…

第19話 Jazzへ

ダニエルはよく僕がテープに録音した曲を持っていくと、宿題として持ち帰ってくれてコードを探して、弾き方を教えてくれた。 その中でもよく覚えているのが、ニーナ・シモンの歌う「Love me or Leave me」だ。 もともとメキシコ人の観光ガイドの友達が教えて…

第18話 国境の子守歌

僕は1週間かけて何度もダニエルの鼻歌を聞き、ああでもない、こうでもないと歌詞をあてていった。 悲しげなメロディ(マイナーコード)でトーンが統一されていて、聞いているうちに僕は加藤登紀子を思い出した。 実は留学にあたり加藤登紀子のCDをカセットに…

第17話 鼻歌に作詞という宿題

毎週日付と課題がリストアップされた ある日、ダニエルのアパートにレッスンに行くと、例によって小さなギターを抱えながらダニエルが鼻歌を歌いながら伴奏していた。ゆったりとしたバラード調のメロディーだが、なぜか懐かしい感覚がした。 その日、普通に…

第16話 アンダードッグ・ラグ(負け犬のラグタイム)

White Feathers in the Coop アルバムジャケット。 ダニエルの人生は音楽を土台にすべてが成り立っている。だけど何か事情があってアメリカに嫌気がさし、メキシコのオアハカで住むようになった。でも自分が成し遂げてきたこと(=過去)にほとんど執着がなく…

第15話 生まれて初めての実技試験

ダニエルとギターレッスンを開始してから2か月ほどたった頃のことだ。 「シンジ、これは正式なクラスだから当然実技試験がある」 とダニエル師匠は僕に告げた。 「フィンガーピッキングの課題をリズムに合わせてなるべく正確に弾く。それからこれまで覚えた…

第14話 My baby is so fine

作者直筆の歌詞とコード進行 ダニエルは自分のアルバムが入ったテープを貸してくれた。10代の頃からレコーディングに参加し、リーダーズアルバムは17枚を数えると教えてくれた。でも僕が知っている洋楽の世界に彼の名前はない。本人が自主制作したものや自分…

第13話 エリック・クラプトン

メキシコ北部の町できいたホーンセクション主体のバンダ ダニエルとのレッスンに、僕は常に自分が弾いて歌いたいと思った曲をカセットにダビングしては持って行った。今考えるとなんともぜいたくなことをしていたのかと思うが、いつも次のレッスンまでにダニ…

第12話 感情を表現する

アフリカからアメリカ大陸に行きついたリズムが多くの音楽のルーツになった ダニエルのレッスンは常に音楽の歴史とともに進む。彼はカントリーとブルースをベースに、ジャズやアフリカ音楽、カリブの音楽を取り入れて「ワールドビート」という独自のスタイル…

第11話 ラグタイム

町ではときにけたたましい音楽が家まで聞こえる。 トラビス・ピッキングを何度も練習しているうちに、徐々に形ができてきた。その頃の僕はたぶん取りつかれたようにこの一見複雑なピッキングを何度も何度も繰り返して自分のものにしようとしていた。 ベース…

第10話 3フィンガー

ホテルのロビーでフラメンコが演奏される(本文と写真は関係ありません。) 「マール・トラビスからすべてが始まっている」 ダニエルは僕にフィンガーピッキングを教えるときにあるギタリストの話をし始めた。後にトラビス・ピッキングと呼ばれる奏法を編み…

第9話 楽して弦を押さえる

メキシコで見たジャズ生演奏。キューバ人のバンドによくお目にかかれる。 ところでダニエルは、開放弦を使うことを僕に強く勧めた。コードを抑えるときに、左手の人差し指で一列ズバッと押さえ、他の指の抑える位置でコードを構成するやり方をセハというらし…

第8話 ワン・フォー・ファイブ(1・4・5)

ソン・ハロチョはベラクルスのスタイルだ 「西洋の音楽にはいろんな法則がある。その一つに1・4・5というのがある」 そう言いながら、ダニエルは聞き覚えのあるラテン音楽を弾き始めた。 「Cが1とすれば、4はF、5はGだ」 つまり一つ目のコードがCだから…

第7話 Caballo Viejo(カバジョ・ビエホ) 年老いた馬

メキシコにいてうれしいことの一つは、道を歩いているだけで家庭や店からラテン音楽が漏れ聞こえることだ。せっかく中南米にいるのだからと、僕はせっせとサルサやクンビア、マリアッチなどの音楽を友達からダビングさせてもらったり、CDショップで購入して…

第6話 算数みたいに音楽する

オアハカの市場で買ったギターは少しボディの裏面が膨らんでいる 最初のコードがE(ミ)だとすると、僕の場合、そのまま歌うとサビで必ず声がでなくなるか上ずってひどい声になってしまう。だからコード自体を「C(ド)」まで下げて曲全体を少し低い音でも歌…

第5話 トランスクリプション

コード進行の換算をした計算ページ 「あれ、真似しようとしてもうまくできないぜ」 ダニエルは茶化すように僕の弾き方を真似するが、確かにうまくできないようだ。そしてにやりと笑った。それは僕をこれから育てようとしてくれるにあたって、少しは筋がある…

第4話 課題曲「Por Ella」

Por Ellaの歌詞とコード進行を書いた初めての弾き語り用ノート コードを実際に鳴らしながら曲を弾くための練習曲も自分で用意する。僕が授業に持って行ったカセットテープを彼は預かり、次の授業までにコード進行を書いて用意してくれていた。このやりとりは…

第3話 コード

誕生日プレゼントにもらったハーモニカ ダニエルは、大きな体に似合わない、小さなギターだけを持っていた。僕のギターと同じ下から3弦がナイロン、上側の3弦が金属性の弦が貼ってある、いわゆるガットギターとかクラシックギターと言われるものだ。彼の少し…

第2話 ギターの音色

石壁のアパートに、乾いたギターの音が響き渡る それから幾月が経過した1月のある日、僕は自分の誕生日に大家さん家族とダニエルを招いて食事会を催した。僕は限られた材料で自分にできる和食をふるまった。親子丼を作ったように覚えている。 その1週間ほど…

第1話 ダニエル (「ダニエルからギターを習う」 初回)

市場には郷土料理を食べさせる食堂がたくさんある。 「ダニエルからギターを習う」という連載を本日より開始します。 僕がメキシコに学生のときに出会ったミュージシャンからギターを習う話です。 ダン・デル・サントというミュージシャンのことを知っている…