サンクリストバル・デ・ラスカサスへ
2番目の経由地であるサン・クリストバルまでの道のりの前半3分の2は、片側一車線の緩やかな上り坂がひたすら続く。
順調に進んでいた車は、途中何度か低速のトラックに行方を阻まれた。また逆に、制限時速をはるかに超えて追い抜かしていく車もいる。
トゥクストラ・グティエレスとサン・クリストバル、その先のコミタン、さらに隣国グアテマラまで、いろいろな大きさの車がこの道を使って物や人を運んでいるのだ。その車の流れに合わせ、高速の車がきたら路肩に車を寄せて追い抜くのを見送り、低速の車は対向車線にはみ出して抜き去る。
そうして一路東を目指す車の流れの中に、山積みのプラスチックかごを荷台にロープでくくり付け、ひたすらゆっくりと走るトラックが、僕らのバンの前をしばらくの間走っていた。
かご満載のトラックは、くねくねした登り坂が続くせいで対向車線に車が来ているかどうかが全く見えず、センターラインを越えて抜かすことができない。
十分ほどそのトラックの後ろをゆっくり走らざるをえなかった。あまり暇なので、じっとそのトラックの後ろ姿を眺めていると、大量の箱のそれぞれにニワトリが入っているのが見えた。クリーム色のかごから赤いとさかが見え隠れして、
「もう車酔いするから乱暴な運転やめてよね」
と言わんばかりに鋭い目つきでじっとうずくまっているのだ。
かごはざっと数えて150は積まれている。1つに2羽ないし3羽入っているから、少なく見積もっても300羽は載っているようだ。彼らはこれから鶏肉として売られていく運命なのかもしれない。
僕がそんなニワトリたちの運命に想いを巡らせている間も、隣ではお構いなしに「いとこの結婚式に出るのよね」とお姉さんが言い、運転手が「いやあ、スミデロ渓谷はきれいだから行かれたほうがいいですよ、お嬢さん」みたいなたわいもない会話が延々と続いている。
そんな風にのんびりと乗り合いバンに揺られて一時間もすると、山肌に松の木が多く見られるようになる。ここには日本を思い出す懐かしい風景がある。そういえば90年代に村上春樹がこの地を訪れた時も、日本を思い出させると書いていた。
先住民の村が点在する、少し物悲しい町サン・クリストバルに、一時間半で車は到着した。
村上春樹 「辺境・近境」についてはこちらから。