3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

25話 アインシュタイン登場

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教え子にはあだ名がつく(男子のみ)

結局その日の午後、2時間ほど続いたセッションで、僕らは少し馬にまたがるところまで教えてもらったが、歩くまでで決して走ることはなかった。

その前に覚えなくてはならないことがたくさんあるのだ。牧場の中で自然とどう対峙するのか、芝生に座ってまっ青な空の下、日が暮れ、肌寒くなるまでイントロダクションを受けた。

サムエルはいつも牧場の世話をせっせとしながら無口に動き回っているが、こと馬や自然のことを語りだすと饒舌になる。人を引き付ける迫力とユーモアも兼ね備えている。

そして教えを請う僕ら「弟子」たち、特に男の場合はアダ名をつけて面白がる癖がある。最初は人の名前を記憶するのが苦手なのかと思ったが、実はただ面白がっているようにも見える。馬は⒕頭分しっかり名前を覚えているけれど、毎日出たり入ったりする旅行者の名前は、そもそも覚える気がないのかもしれない。

というわけで、ロシア系アメリカ人のデイビッドは「アインシュタイン」と名付けられた。髪がカールしていて、もさっとしているからみたいだが、実はサムのほうがアインシュタイン風のぼさぼさ髪をしている。

 

「あなたのほうがアインシュタインに似ていると思うんだけど」

 

とデイビッドはささやかに抵抗したが、まったくもって相手にされなかった。デイビッドがアインシュタインと呼ばれるのは、似ているか似ていないかの問題ではなく、覚えやすいかどうかの一点のみに起因しているようだ。ちなみに女子にあだ名は決してつかない。

たぶんアメリカ育ちのジェントルマンであるサムエルは、男には小ばかにしたような呼び名をつけるくせに、女の子にはしっかりと名前を覚えて呼ぶ。奥さんのステファニーによると、若い頃はずいぶんもてたらしいが、こんなところにもその片鱗は表れているのかもしれない。何しろハリウッドで若い頃は俳優をしていたらしい。

 

「私と知り合うまでメキシコを転々としている間、ガールフレンドいっぱいいたみたいよ。でもその話は私のいないところで聞いてね」

 

とステファニーが冗談めかして言っていたのを思い出した。

そして僕はというと、サムエルから「シナジー」と名付けられた。これは僕の名前が「シンジ」だから分かりやすい。でもそこまで覚えてくれたんだったら、そのまま「シンジ」と発音してくれればいいのに、少しでも覚えやすいように変換しておくと彼にとってどうも都合がよいようだ。それから3日のうちにいつの間にか僕の呼び名は「シニジ」に変わっていた。