辺りが暗くなり始めた頃、「メリークリスマス」という乾杯でディナーは始まった。すでにワインを飲みながら準備をしていたので、がやがやとにぎやかだ。クリスティーナは英語が話せないし、サムエルのスペイン語はかなりブロークンだ。だから間にステファニーやその娘たちが入って、フランス語を含めた三言語が混ざり合う、まさに言葉のボーダレス状態に入った。
子供たちは運動会のかけっこの号砲が鳴ったときみたいな勢いで、寿司の奪い合いを始め、皆に用意されたお箸――なぜかきれいな日本の塗り箸が用意されていた――で、鼻息荒くほおばっている。
あっという間に二枚の皿からは少し形のゆがんだ巻き寿司が姿を消した。それにしてもそこにいた全員がお寿司だけでなく、バーニャが作ったサラダなんかもお箸で器用に食べているのが不思議だった。
この日の招待客の一人、ドイツ人のセバスチアンも、ヨーロッパからやってきてこの土地が気に入り住み着いた一人だ。民宿をメキシコ人の奥さんのジュリディアと営みながら、幼稚園児の息子と娘、それに男の子の赤ちゃんと一緒に生活している。
ハンチングハットをかぶり、相当にしっかりした一眼ガンレフのカメラでパーティの様子を写真に収めている。奥さんはなぜかフランス語を流ちょうに話していたが、持ち寄った揚げタコスは正真正銘の伝統的メキシコ料理だった。
かかっている音楽はクイーンのボヘミアン・ラプソディなど勢いのいい曲を中心に、七十年代の洋楽がランダムにかかっている。この日のDJサムエルは五十八歳、ちょうど僕の十歳年上だが、音楽の趣味で余計に世代が分かる。
皿の上の食事がひと段落してきたところで、突然サムエルがみんなに向かってコールした。
「シニジがギターを弾くって聞いたんだ。ちょっと弾いてもらおうや」
どうやらデイビッドがサムエルに、僕らがそれぞれ歌を披露するつもりだと伝えていたみたいだ。
まだ本名の「シンジ」ではなく「シニジ」とサムエルに呼ばれている僕は、コード進行つき自作弾き語り用歌詞カードを母屋に二枚だけ持ってきていた。ギターはデイビッドがちゃんと持ってきている。夕方に共有キッチンを急づくりのスタジオにして、二人で打ち合わせは済ませている。コードをいくつか試したが、チューニングはばっちり合っている。