みんなが注目して静まりかえる中、僕は坂本九の「見上げてごらん夜の星を」を一曲目に歌うことにした。オリジナルバージョンはほとんど聞いたことがないのだけれど、平井堅がカバーしているのを聞いて、自分でも歌うようになった曲だ。
「この曲は、日本で一九六〇年代にヒットした曲で、夜空の星が僕らの小さな幸せを照らすということがテーマになっている。ここの夜空の星が曲のイメージにぴったりだし」
その場で日本語が分かるのは僕だけだから、そんな風に英語で少し解説してからギターを弾き始めた。
見上げてごらん、夜の星を
小さな星の、小さな光が
ささやかな幸せを、歌ってる
見上げてごらん、夜の星を
僕らのように、名もない星が
ささやかな幸せを、祈ってる
別に僕は歌手でもなんでもないけれど、機会があればできるだけ人前でも歌うことにしている。特に多少下手でも盛り上げてくれるのが分かっている場合はなおさらだ。
その夜はすでにワインで酔っていたこともあり、ずいぶん気持ちよく、そして間違わずに歌えたのだ。日本語だから誰も一緒には歌わなかったけれど、どうやら僕が弾き語りするとは誰も思っていなかったみたいで、曲が終わると机をたたいて大歓声が巻き起こった。