3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

第1話 ダニエル (「ダニエルからギターを習う」 初回)

f:id:Shinjiyoshikawa:20210102063906j:plain

市場には郷土料理を食べさせる食堂がたくさんある。

 

「ダニエルからギターを習う」という連載を本日より開始します。

僕がメキシコに学生のときに出会ったミュージシャンからギターを習う話です。

 

 


 ダン・デル・サントというミュージシャンのことを知っている日本人はほとんどいない。ニューヨーク出身のイタリア系アメリカ人で、プロフェッショナルのギタリストでありシンガーソングライターだ。

 彼に出会ったのは僕が21歳の時だ。ちょうどメキシコのオアハカ州にアパートを借りてスペイン語を勉強していた頃で、1992年にさかのぼる。僕は大学を休学し、スペイン語を何とか現地で身につけようと、なるだけ日本人が集まらない田舎町で、しかもまあまあ大学なんかの教育機関がしっかりしているところを探して住み始めた。

 オアハカに行くには当時メキシコシティから10時間ほどバスに揺られ、山を越えて南へ下り、やっと着くような長い道のりだった。高速道路ができたから4時間で着く今でも、先住民の村が周囲に点在するせいで町全体に独特の色合いが広がり、静かだが華やかな趣がある。そんな独自の文化を求めて、90年代当時から欧米を中心に多くの外国人が観光したり、移住していた。移住していた外国人の多くは画家など何かしらのアートを生業としていた。そのほかには、寒い北米から温暖な気候を求めてやってきた年配の人たちが多くいた。

 

 メキシコならどこでも町の真ん中にあるソカロと呼ばれる公園があるが、僕はオアハカのソカロから3ブロック西へ歩いたとこにある、古いが、コロニアル調の風情が素敵な石造りの平屋の1室を間借りしていた。大家さんの家族が住む母屋と壁を隔てて隣にある部屋だった。

 通りに面した重くて大きな木製の門は固く閉じているが、一度開けると中には、通路があり、5世帯ほどがゆったり暮らせる家が敷地内に並んでいる。僕と大家さん家族のほかに、親戚の夫婦や長男夫婦の家があり、その2軒の間に僕と同じように間借りできるアパートがあった。そこに彼は住んでいた。僕のギターの師匠となるダニエルだ。彼が人前演奏したり、CDを出すときは「ダン・デル・サント」と名乗っている。

 あごひげがあり、黒い長髪を後ろでくくっている。低くしゃがれた声で、知り合った当時僕とは簡単な挨拶をする程度だった。大家さんからは、

 

「ニューヨークでDJをしていたアメリカ人だって。同じ敷地に住むからよろしくね」

 

と紹介された。