ダニエルとギターレッスンを開始してから2か月ほどたった頃のことだ。
「シンジ、これは正式なクラスだから当然実技試験がある」
とダニエル師匠は僕に告げた。
「フィンガーピッキングの課題をリズムに合わせてなるべく正確に弾く。それからこれまで覚えた曲の弾きがたりだ」
僕は試験と聞くと緊張してしまうたちなので、本番で緊張しないように何度も家で練習をした。
「曲を弾き語るときは、人に聞かせることが大切だ。自分ひとりで弾くのと、誰かに聞いてもらうのとでは意味が少し違う。あんたにはミュージシャンとしてギターを仕込みたいと思っている」
相変わらずダニエルは僕にモチベーションを高める言葉を投げかけてくる。ほんの少し前までコードも弾けなかった僕が、数週間で1曲弾き語りができるようになり、そしてフィンガーピッキングでラグタイムの簡単な奏法を学び始めている。
そして予告から3日後のテスト本番。ダニエルは僕に順番に課題曲を弾くように指示した。
1つ目はラグタイムの練習曲。僕はダニエルの見本をカセットテープに録音し、指の使い方を頭に焼き付けて家で練習した。だけどラグタイムはただコードを弾くだけでなく、途中で短いがソロパートが入る。それはフレットをコードの形に押さえるだけでは弾くことができない。どうやら僕はフレットを左手の指で押さえるときに速く指を運ぶのが苦手なようだ。
「まだまだ練習が足りない」
そうダニエルは僕に告げた。でもソロパート以外は及第点だという。
「次はPor ella、Caballo Viejoを弾いてもらう」
ダニエルを前に僕は一曲ずつ途中で止まらず演奏しながら歌った。どうもダニエルは僕のラテンチックなリズムギターが気に入っているようで、何度もうなづいた。
「オーケーだ。今からショーをイメージするんだ。だいたい15曲用意できれば1つのワンマンショーができるようになる。せっかくだから日本の曲や英語の曲も混ぜていこう」
ダニエルは自分がそうしてきたように、僕にバーやレストランでショーができるようにいろいろなバリエーションの曲を覚えさせようとしていた。
そして、その日生まれて初めて僕が受けたギターの実技試験はA+だった。たぶん始めて間もないからおまけも入っていたと思うが、プロのギタリストから試験結果をノートに書きこまれて、僕のやる気はまた上がった。