3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

14話 世界中から集まる宿泊客、僕もその1人

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屋外の木のテーブルにはひっきりなしに誰かがたむろしにくる

母屋の前に広がる広大な土地に、丸太で作った六人がけのテーブルがある。

そこで粘土をこねくり回して陶器らしきものを作ろうとしている褐色の肌をした女性が笑いかけてきた。あいさつの握手は、ねとねとの粘土のせいでできないが、スリランカ出身で、サンフランシスコに住んでいるバーニャだと名乗った。

「オリジナリー・フロム・スリランカ

とネイティブな英語で言われ、僕は戸惑った。カテゴリーでいうと、僕とバーニャは同じアジア人のはずだ。でも見た目は褐色で目が大きく、南アジア系のエキゾチックな顔をしている。

そして英語はアメリカ人そのものだ。デイビッドと二人で「友達」として同じ部屋に泊まって一緒に旅している。滞在中2人の間に愛のささやきらしきものがまったくなかったので、本当に友達としてルームシェアしているのだろう。

デイビッドはロシア生まれだが、10歳のときに家族みんなでアメリカに移り住んだ。バーニャは15年間家族と移住したサンフランシスコで働いていたというから、スリランカアメリカ人という方が正しいのかもしれない。

典型的なスリランカ人のイメージといえば、僕の中ではサリなどの民族衣装をまとい、金の腕輪をし、眉間に黒いほくろのようなものを塗っている。だけど彼女はショートヘアでジーンズにトレーナー姿だ。2人とも独身らしい。

あとで聞いたが、この宿の宿泊客は9割が外国人だ。馬とのコミュニケーションを大切にする馬術を学び、さらに田舎暮らしを体験できるため、ヨーロッパから訪ねてくる人が特に多いという。

たぶん、フランス語や英語が通じるのも欧米人をこんな辺鄙なところまで引き寄せる理由の1つだろう。そんな中、まれに僕のような日本人が迷い込む。

母屋の中央には長い木のテーブルがあり、そこには詰めれば10人ほどが座れる、「食卓」兼、「事務机」兼、「応接室」兼、「子供の勉強机」があった。普通のホテルでいうなら、レセプションのフロントデスクにもなる。僕はすでに寝泊まりする小屋1棟を700ペソ(4200円)で借り切り、食事と宿泊費をネットバンキングで振り込んであった。

メールでのやり取りはすでに5往復もしていたので、初対面だけどこの家族は他人とは思えない。「寒いからセーター持ってこいよ」とか、「食事は肉や魚も食べるのか」だとか、まるで遠くから久しぶりにやって来る友達を迎えるような、親しげで、感じのいいやり取りだった。

そして安い移動の仕方について教えてもらった僕は、結局1000ペソ(6000円)で空港から直接タクシーで乗り付ける代わりに、時間はかかったけど280ペソ(1700円)で牧場に着くことができた。