3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

13話 「さあ、ようこそ、私たちの牧場へ」

 

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エバーグリーン牧場は森の中に突然現れた

砂利をぺちぺちこんこんとはじきとばしながら、がたがたと大きな音を立てて進むタクシーの中では大声を出さないと相手の声が聞こえない。だからだんだん僕もステファニーも無口になった。そうして国道沿いのベタニアの村から40分ほど山の中へ入り、坂道を上ったり下りたりしながらようやく目的地にたどり着いた。

「青い門のほうに車をつけてね。今回は荷物が多いから」

 ステファニーは運転手に慣れた口ぶりで告げた。「門」というよりは、ただの「柵」の前で車はようやく止まった。僕は荷物をトランクから出すのを手伝いながら、割り当てられた40ペソ(240円)をステファニーに渡した。1人でタクシーに乗っていたら3倍以上のお金がかかっていた。こんな風に宿の女将に国道沿いで巡り会うことなんて普通はないのだろうけれど、たまには信念を曲げず、だらだら粘ることも大切だ。

「さあ、ようこそ私たちの牧場へ。ここがランチョ(スペイン語で牧場)・エバーグリーンよ」

ステファニーは相変わらずきれいな白い歯を見せながら、高々と告げた。

 

目にしみるような鮮やかな緑は、よく日が当たって育った芝生のせいだ。いくつかの木の柵が広大な土地を大雑把に仕切っている。さっきまで埃っぽい道をタクシーで走ってきたせいか、余計に空気が澄んで見える。空は濃い青で、太陽からの光が近くて鋭いのは、標高が2000メートルを超えるからかもしれない。

さっき入ってきた門から中に少し歩き、ステファニーたち家族の住む母屋に向かった。まずステファニーのだんなでシャヤンのお父さんでもある、サムエルが上半身裸のぼさぼさ頭で登場した。悪いけど雑誌で見たはずの、きりっとしたアメリカ人青年の姿はそこにはなかった。

グレーの髪はライオンのたてがみみたいに広がり放題だ。どちらかといえばひょうきんなおじさんという風情をしている。アメリカ人だからサミュエルのはずだけど、スペイン語風にサムエルの「エ」にアクセントをつけて奥さんからは呼ばれている。

続いてサングラスをかけた「ど」金髪の兄ちゃんが、芝生に足を投げ出し、後ろ手に体を支えながら座っていた。

「初めまして。サンフランシスコから来たデイビッドだよ」

 カーリーヘアーの白人で、ちょっとぽっちゃりした若い兄ちゃんだ。青い目をした彼の年齢は、見たところ30歳前後で、同級生だったらあんまり近寄りたくないタイプの、なんか意地悪そうな笑いを口元に浮かべている。でもこれは僕のひどい偏見で、実は真面目一徹なエンジニアだということが後から分かった。