夜が明けたクリスマス当日の朝八時ごろ、身支度をすっかり済ませた僕は、とうとうメキシコシティに戻らなくてはならない。
母屋の前ではいつも通り、中に入ろうと控えている猫たちが待っている。何とか足でブロックしながら扉をすり抜けて中に入ることに成功した。そして三日間お世話になったステファニーに最後の朝ご飯を作ってもらった。そして起きたばかりでいつも以上にもしゃもしゃ頭のサムエルに「グッドモーニング」と挨拶をした。
その日の朝食もやっぱりフルーツ、ヨーグルト、クレープとコーヒーをお願いした。肌寒い高原の朝の空気の中で、チアパス産のコーヒーから立つ湯気が鼻先を心地よくかすめた。
最後に滞在中追加で頼んだワインや、山への乗馬ツアーの追加精算も済ませた。ステファニーはサムエルに馬術セッションの代金を確認して、もう支払いそびれいているお金はないことがわかった。僕はどの旅先でも念のため領収書をもらう癖がついている。
でもエバーグリーン牧場には、経理システムから発行されるような統一書式の領収書なんてない。だから、ステファニーが白いコピー用紙に直筆で滞在費用を書きとめて、一番下にサインをしてくれた。
サンクリストバル・デ・ラスカサス
エバーグリーン牧場
2018年12月25日
宿泊、食事、馬術アクティビティ代金 3780ペソ
マネージャー ステファニー・ドアレゴン
「これでいいかしら。『マネージャー』のステファニーって書いておいたからね」
別に役職も何もないんだけれど、と照れくさそうに笑った。おかしくて僕も大笑いした。
「ただマネージャーという言葉が好きで、書いてみたいだけなのよ」
僕のように領収書をくれなんていう旅行者は、エバーグリーン牧場
には来ないようだ。
そしてこの三泊四日の滞在費合計金額は日本円でだいたい二万二千円だった。これが安いか高いかは、初体験だらけだった僕には、もはやどうでもよかった。