3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

会社員でも旅に出たいをテーマに、サラリーマンの吉川が、駐在するメキシコを中心に旅した記録をつづります。チアパス州の奥地にあるエバーグリーン牧場を舞台に繰り広げられる人や動物との出会いが第1作目です。

17話 たった1つのルール

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エバーグリーン牧場の犬たちは何だかとても人懐っこい

続いて小屋の裏側にあるトイレとシャワーに案内された。シャワールームは1人がぎりぎり入れる広さだが、小さな脱衣所も用意されているから体を洗うには十分だ。

昼間に入ればボイラーのタンクが日光で温まり、ちょうどいいお湯が火を点けなくても浴びられるという。そして日が暮れれば薪をくべ、温水を用意する。そして薪はステファニーやサムエルが焚いてくれる。

薪でシャワー用のお湯を温めたことはあるが、昼間の太陽の熱だけで勝手に温水が出るというのは、僕も未経験の究極のソーラーパワーシステムだ。確かにこの円筒状のボイラーに降り注ぐ太陽光を遮るものは周りに何も見当たらない。

続いてトイレ。木戸を手前に引いて開けると、エメラルドグリーンのペンキで着色された、取っ手のついた木製のふたが便器に載せてあった。それを持ち上げると、だいたい1メートルぐらいの穴が掘ってあって、大も小もそこに落下するようになっている。当然ながら水洗ではない。

「おしっこはここでしてもいいけど、別にわざわざトイレでする必要はないわ。牧場のどこでも好きにしてちょうだい。それからうんちの後なんだけど、1つだけお願いがあるの。このバケツに入っている灰を上からかけておいてほしいの」

なるほど、温水用の薪が入浴後に灰になるから、それを消臭・消毒用に使い、最終的に灰とミックスされたうんちは土に帰るのだ。世界でさかんに叫ばれている「環境にやさしい循環型社会」が、この牧場では見事に実現している。

「3時半頃になると思うけど食事ができたら呼びに来るわ。それまで散歩するなり本を読むなり休憩していて。牧場内はどこに入ってもいいし、歩き回っておいしい空気を吸うといいわ。ただし、1つ絶対守ってほしい共通のルールがあるの」

ステファニーは僕が休めるようにと、ハンモックを木と木の間にかけながら言った。

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「ハンモックで休んでてね」とステファニーは言った。

「柵で仕切られている場所に出入りするときは、動物が柵から出ないようにかんぬきを必ずかけてほしいの。開けっぱなしはだめ。それ以外は何をしてもいいわ」

それだけ言うと、彼女は食事の支度をしに母屋に戻っていった。なるほど、広大に見える土地も実はこまめに木の柵でスペースが仕切られていて、そこに動物たちが配置されているのだ。

特に馬に関しては「今はここにいて餌を食べろ」とか、「次はあっちでお客さんの乗馬につきあってやれ」、などと待機するスペースが決まっている。

どの場所にいるかで、自分が今やるべきことが理解できるようになっているらしい。そうは言っても、馬と羊以外は体が小さいのでどんな柵もすり抜け放題だ。