せっかくなので小屋の裏でハンモックに横たわって本を読もうとしたが、あまりに空が広く、おまけに冬の高原は涼しいので何だか落ち着かない。視界に入るものと言えば、斧や山積みされた薪、タイヤがぺしゃんこにパンクしたトヨタのピックアップトラックが2台、それに緑色のトラクターが1台だ。
そもそも落ち着きがない僕は、食事までの時間うろうろと牧場を散歩することにした。濃い緑の芝生の上には、いろんな動物の大小織り交ざった糞が転がっている。これはすべて肥料として地面に帰るから、まったく汚いと感じない。
都会のコンクリートの上に転がっている糞と違って、尊くさえ感じてしまう。おまけになぜか匂いがしない。僕が知っている、牛や馬がいる牧場では、とにかく糞の匂いが強い場所ばかりだが、ここはそういう心配がない。それは土地が広大なせいで、人口密度ならぬ動物密度が圧倒的に低いからかもしれない。
動物たちにもそれぞれ特徴があって、見ているだけで飽きない。犬たちは人を見つけたら、しめしめ遊んでもらおうと上目づかいに寄ってくる。手を汚すのが嫌な僕がそっけなくしていると、
「せっかくものすごく人に慣れてあげているのに、誰も相手にしてくれないから寂しいわ」
という表情をする。
1匹があきらめていなくなると、他の犬が遊んでくれーと仰向けにお腹をさらしてくる。それから背中を僕の足にこすりつけてくるやつもいる。一方猫はみゃーみゃーと寄ってくるが、相手にしないとすぐ広大な土地を自由に歩き回り、芝の上で面倒くさそうに眼を閉じてうずくまったりしている。
餌をくれそうかどうか品定めした上で、相手にしてくれれば多少くっついて暖を取ろうとする。その自分勝手加減が分かりやすくて潔い。
そうかと思うと、ニワトリの集団がギャーギャー騒ぎながら、柵の囲いを完全に無視してあっちへ行っては地面をつつき、こっちへ行っては犬に追いかけられと騒がしいったらありゃしない。なぜかその集団に、ちょっと泣きそうな顔をした七面鳥1羽が遅れがちにくっついている。
たぶん本人は自分がニワトリだと思っているに違いない。背筋というか首筋をぴんと伸ばし、目つきのするどい大柄の雄鶏が群れの中心にいて、彼を筆頭主席としたこの群れは、この情けない顔の七面鳥を子分として従えている。
泣きそうな七面鳥は、ニワトリに比べてただ少しだけ体が大きくて、鳴き声が微妙に違うだけだから、誰とどう群れようが自由なのだ。1人でいるよりこのほうが、犬や猫に追いかけられたときにきっと反撃しやすいのだろう。
広い敷地のたった一部だけれど、散歩を終えて部屋で荷をほどいていると、しばらくしてステファニーが「昼ごはんだよー」と知らせに来た。