小屋に戻り、紅茶で一服しようと共有キッチンでお湯を沸かし始めた。
持ってきた読みかけの小説と備え付けのティーカップを手作りの木製テーブルにのせ、やかんから湯気が出てくるのを待ち、リュックからステファニー直筆「電波探索用地図」を出してテーブルに置いたとき、その裏面の落書きが目に入った。
僕は表面の地図を必死で解読しようと凝視していたせいで、それまで裏は気にしていなかったのだ。そこには、赤いボールペンでいかにもティーンエイジャーの女子が描いた、少女漫画チックなハートマークが三つあり、宛名に「ホセ」と男の名前がある。
「テ・アモ(愛してる)」
書いたのはひょっとしたらゾエかもしれないし、シャヤンかもしれない。それとも近所の女の子が落書きして置いていったのかもしれなかった。
でもそんなロマンチックなメッセージが書かれた紙も、さばさばした女将のステファニーにかかればただのメモ用紙でしかない。僕は裏と表を見比べて、思わず声を出して笑ってしまった。